半年。6カ月。
ついにその日が訪れた。
「お父さん!あれから半年たったで!あたしはいまだにギターを弾きたくて
弾きたくてたまらないよ!ちっとも熱、冷めてないよ!」
「あっそ」
男の約束である。オトンはその日、あたしを認めてくれたのである。
さて、恥ずかしいことではあるが、あたしはマイファーストギターを、オカンと一緒に買いにいっている。
普通、一人で、或いは楽器に精通した人間を連れて出掛けるところだろう。
全く、ロックとはほど遠い買い方である。
ちなみに買うギターも決めていなかった。
鈴本くんが持っているギターは、フェルナンデスの黒のストラト。
当時大好きだった聖飢魔Uのジェイル大橋が使用していたギターはフライングV。
フライングVは、鈴本くんの家にもあり、弾かせてもらったことがあるが、
座って弾く場合にギターのボディをどこで支えていいのかわからない。
Vの股になっている部分を太腿に固定すると、非常に縦方向で弾くスタイルになるし、
Vの股で固定しないと、それはそれで極めて安定性の悪い型だったため、
それを買う気にはなれなかった。
ま、どっちにしろ興味がなかったが。
となると、聖飢魔U、もう一人のギターであるエース清水の使用しているギター。(って別に聖飢魔Uで決めなくてもいいだろ)
彼が当時使用していたギターは、白ボディに黒のピックガードがついたストラト。
おそらくESPのギターだった気がするが定かではない。(アリアかも)
というわけで、
「白地に黒のピックガードで、ヘッドがとんがってるストラト。アーム付き」にしようとばく然と思ってはいたが、どこのメーカーがいいのかもわかっていない始末。
一緒にいるのはド素人のオカン、である。
「アンタ、どれにするの」
「ちょっと待ってよ」
「そんな高いの買えへんで」
「わかっとるわ、触っただけやん」
あたしとオカンは楽器屋を右往左往。
なんとなくそれっぽいギターがあっても、値段が高かったり、アームがついていなかったり、ヘッドがとんがっていなかったりする。(こだわる部分に間違いがあるが、若い頃なんてそんなもん)
値段とスタイルで絞っていくと、これかなぁ、というギターが1本あった。
ヤマハのストラト。白地に黒のピックガード。ヘッドとんがってる。ネック細い。ボディ軽い。
でも、ヤマハってどうなん!?
ヤマハのギターを使っているミュージシャンは、後々結構いることを知ったが、その時のあたしには、
「ヤマハ」=「エレクトーン」であった。
よくわからんけど、フェルナンデスとかフェンダーとかがいいなぁ、と思っていたので、ヤマハのギターは、なんかかっこ悪い気がして非常に困った。
「5万5千円。もうこれにしとき」
オカンは疲れてきている。
オカンの「これにしとき」が出た時はずばり、もうどうでもいい、早く帰りたい時なのである。
店員も、
「女の子にはいいですよ。軽いし。」
と、最後のどうでもいい「押し」に入ってきた。
正直あたしも、わけがわからなくなっていた。
ここで決めなければ、
「もう要らんってことでええの?」
と言われそうで嫌だった。
「じゃ、これにします」
試奏などしない。見かけが全て、である。
「弾いてみていいですよ」
と言われたところで、
「悪魔の賛美歌」のイントロと、「蝋人形の館」のイントロしか弾けない。
ちょっと地獄寄りすぎる。
ストラップとソフトケース、ピック数枚をつけてもらい、手渡される。
ギターの入ったソフトケースを肩に背負う。
嗚呼!!!!!あたしギタリスト!!!!!!!!
なんだかその時、もう死んでもええかな、って思った。
(人生これからです)
小日向ヒカゲ
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