あたしの転校生生活を地獄にした、悪魔のような女、ノリエ。彼女は最初、天使のように、あたしに近づいてきた。
「同じ地区だからね、仲良くしようね」
小さい頃から、つるんで遊ぶのが苦手だったあたしにとって、このノリエの集団意識は、苦痛至極。何をするにもあたし他、同地区の女の子2人と一緒。
反面、一つ上で、何かと仕切りたがりのノリエは、頼もしい存在にも見えた。
しかし。
大阪弁丸出しで、単独行動の好きなあたしを、ノリエが嫌うのは時間の問題。
「あ」という間にあたしは、いじめの標的にされてしまったのだ。
地区のイベント、集団下校、遊びなど、とにかくノリエは、あたしの存在をオール無視。アイム インビシブルガール。だからと言って、男子更衣室を覗けるわけじゃない。
あたしが声をかけようが、笑おうが、ずっこけようが、まるでかまってもらえない。つるんでいた2人の女の子も、ノリエからいじめられるのが怖くて、一緒になって無視をする。
ウーン、クールなことやってくれんじゃねーか。
しかもノリエ、小学5年生にして、飴と鞭の使い方を熟知しており、数日間、無視を繰り返したと思ったら、突然優しくしなだれかかって話しかけてきたりする。
あたしもアホなので、優しくされるとキャバクラのオヤジの如く、
「別に今までのは、無視してたわけじゃなくて、たまたま会話が噛み合わなかっただけかも」
なんて、うっかり騙されるのである。
で、調子に乗って、自宅に彼女を招きいれては、大好きな「Dr.スランプ」グッズをパクられ、逆に彼女が勝手に失くしたものには濡れ衣を着せられ、「一緒に帰ろう」と言われりゃ、とっくの昔に先に帰ってしまった彼女を延々と待っていたりしたのだ。
ノリエのいじめはとどまることを知らず、手を変え品を変え、ついにはあたしの下駄箱に、謎の怪文書を置くことに熱中した。
怪文書には「あつこより」等、毎回別の友人の名が記されていたが、筆跡ですぐノリエからのものだとわかった。
内容は様々。「お前は呪われている。事故にあって入院する」だの「クラスのみんなは、お前のことが大嫌い」だの、まぁ、非常に小学生レベル。怪文書が毎日置いてあるだけで、靴は無事であったので、あたしは下校時、B5サイズの怪文書を2つにたたんでから靴を履くのが習慣になった。
割と事務的に文書の処理をするあたしに業を煮やしたノリエは、とうとう、これでもか、という、恐ろしい怪文書を下駄箱に入れてきた。
赤ペンで、血みどろにされた女の子の絵。舌を出して苦しそうな表情。腹に包丁が突き刺さっている。
女の子の名前は、あたしだった。
でっかい字で「死ね!!」と書いてあった。
まじすか。
さすがのあたしも、これには参って、泣きながら家に帰った。子供らしく。
「女のアソコをなんて言うんや?言えるまで家に帰さへんでぇ」
なんつー、エロ男子からの小さいものを除いては、あたしが受けたひどいいじめは、ノリエからだけだったし、その理由もおそらく、
「こいつ、憎たらしい」という、個人的感情によるものであっただろうから(今会ったら理由を聞いてみたいもんだ)、おそらく耐えられたし、日々、忘れることができたのであろう。これで、クラスのみんなからも嫌われていたら、ちょっとキツイなぁ、と思う。
今となっては、いじめられたあの時期は、あたしにとって非常にプラスに働いていて、アレがあったから、多少、精神的にしんどいことがあっても耐えられるようになったし、人を傷つけ、傷つけられることの恐ろしさも知った。
しかし、この事件の後遺症として、性格はヒネクレるわ、臆病者になるわ、猜疑心が強くなるわ、小心者になるわ、おなごに気を使うわ、オタクになるわで、ってちょっと待って、圧倒的に後遺症のがひどいやんけ。
で、一番の後遺症は。
「あたしにも言いたいことがあるぞ」
そう。黙っていては、誰にも何も知られることなく人生を終えてしまう。そんなん厭。
一時は漫才師を諦め、人生地味に生きることを決めた小学生。
おとなしくしてりゃいいものを、今ここに、新たな青白き炎を燃やして立ち上がってしまったのである!
あーあ。
つづく
小日向ヒカゲ
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