あたしの小さい頃の写真は「泣いている顔」か「おどけている顔」のどちらかである。
ひょうきん者(ってイマドキちょっと古い物言い)ではあったが、とにかくよく泣く。
だからあたしの顔には、泣きホクロがある。
このホクロは、多感な幼少期を思わせるに十分だが、
顔相占いだと「愛人に適している」やら「一生涯不幸」やら、なにやら日の当たる所では生活できそうにない、裏街道まっしぐらのホクロなんである。
しゃらくせえ。
それはさておき、泣いている以外では、漫才師を目指している極々一般的で純真無垢な小学生であったあたしだが、転校と同時に、「いじめ」を受け、
今でこそ「笑いは人間の悲哀から生まれるもの」と思えど、当時のあたしがそんな悟りを開けるわけがなく、
「いじめられている漫才師なんか、全然面白くないやん!」
と思い、いとも簡単に、漫才師になる夢を捨て去ったのである。
「じゃ、ここで待っててね」
先生に言われて、廊下でスタンバる。先生が先に、教室へ入っていく。あたしが呼ばれる。あたしは颯爽と教室に入り、自分の名前を高らかに詠う。
ザ・転校生。そんなのを想像していた。
しかし。
先生が教室に入ろうとしたその時、一人の男子生徒がドアめがけて走ってきて、
「うわあああ!転校生や!転校生がきたああ!ドア閉めろおおおお!」
と叫び、教室の廊下側の窓を閉めだした。
えええええええええ!?
おかしい。なんでや?あたしは皆から温かい拍手で迎えられるはず。
あんなに大阪で人気のあったあたしやのになんで??
先生がなんとか場を整え、あたしが自分を紹介するころには、あたしはすっかり縮み上がってしまい、あんなに堂々と自分の名前を詠うつもりであったってのに、結局は、背中を丸めて俯き、小さな声でつぶやくようにしか、言葉を発することができなかったのである。
最悪や。
出鼻をくじかれた。あのアホ。あの男だけは許さん。
机に座って俯き、怒りにわなないていると、たくさんの人間が周りに集まってきた。
「どっから来たん?」「家どこなん?」
「クラブどこに入る?」「一緒に給食食べよう」
あれ。なんや、みんないい人やん。あのアホ除いたら。そかそか。そういうことか。
ただの局地的ないじめ。そんなん痛くも痒くもないわ。
こうして仲良くしてくれる友達がいれば、一部の人間に多少何かをされたところで全然平気。
そう思っていたのに。
「ヒカゲちゃん、これから仲良くしようね」
笑顔でそう言ってきた女。それが、1つ上の学年であり、同じ地域に住んでいる、悪魔のような女、ノリエだ。
つづく
小日向ヒカゲ
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