30代もノリにノってきている今ですら「一体なんの因果で」と「スケバン刑事」は麻宮サキの如くに、恨み、妬み、憤る出来事がある。
中学二年生のあたしはその日、部活をさぼり(前話の通り、恋にウツツをぬかしておったので)、友人宅で「お笑い」について熱く語っていた(恋そっちのけで)。
すると、電話。友人が何気なく電話にでる。そして彼女は、不安そうな顔をして、あたしにその受話器を差し出す。
「え、あたし?」
何故、あたし宛の電話が彼女の家に?そして、あたしが彼女の家にいることを相手はどうして知っている?
訳もわからず電話に出ると、
「小日向さん?」
それは、中学校の英語教師からだった。
「???」
「小日向さん、今何をしてました?」
「???えーっと、友人とお話をしてましたけど」
「先生がどうして電話してきたかわかる?」
「全くわかりません」
「小日向さんが、悪いことをしたからです」
「???」
「悪いこと、しましたよね」
「えーっと。悪いこと・・・ですか」
悪いこと。何をもって悪いこととするかによるが、良いことばかりして生きてきてはいない。悪いことも勿論してきている。一体、この英語教師の欲する「悪いこと」とは、あたしがやってきた「悪いこと」のうちのどれを差すのか。皆目見当がつかない。手当たり次第白状してみたところで、教師の求めている其れと的がはずれていたのであれば、
「そんなことをしていたのですかあなたは」
となり、なんだかわからないが、コトが大きくなりかねない。なので、ここは慎重に。
「えーっと。あ、今日まさに、部活をさぼっています」
「そうね。それも悪いことだわね。でもね、そんなことじゃないの」
「えーっと。えーっと。あ、つい先日、ノーヘルで自転車に乗ってしまいました(自転車に乗る時はヘルメットを着用せねばならないダサ中だったのだ)」
「そうね。それも良くないことだわね。でもね、そんなことでもないの」
なんだよこいつ。あたしが過去に行った悪事という悪事を全吐するまで核質密にするつもりか。ヤなヤツ。
「わかりません」
「わからない?あなたが最近やった、悪いこと」
「わかりません」
相手が「悪いことはこれですよ」と言うまで、「わかりません」を繰り返してやろうと思った。人が友人と熱く語っておる時に不躾に電話なんぞしてきおって。その上でのねちっこい尋問。この狼藉許すまじ。
「ふー」
教師は深く長いため息をつき、こう言った。
「Mさんの家で、MさんとKさんと一緒に、吸ったでしょ。未成年が吸ってはいけないものを」
なんだよ、周りくどい言い方しやがって。腹が立ったので、
「ああ、煙草ですか」
と即答してやった。
狼狽して言葉につまり、何も言えなくなるだろう、と目論んでいた教師は、あたしがあまりにあっさり吐いたので、明らかに張り合いを無くした声でこう言った。
「そうよ、わかっていたのなら最初から素直に言えばいいんじゃない。とにかく、今から学校に戻ってらっしゃい。そのことで聞きたいことがあるから」
電話を切って、あたしは友人に「煙草がバレた」と告げ、また学校に戻ることになった。
しかし、煙草て。
実はこの時、あたしはコトの大きさに少しも気付いていなかった。未成年が煙草を吸うという行為は、確かにいけないことではある。いけないことではあるが、この頃のあたしには、自分が煙草を吸っている、という実感が全くなかったのである。というのも。
友人と遊んでいたある日、興味本位でマイルドセブンを1箱購入した2人は、草むらの蔭(ベタすぎる・・・)で1本吸ってみた。吸ってはみたのだが、あたしは吸った煙を「肺に入れる」ことを知らず、口に入れた煙をただただ吐き出すことで「煙草を吸っている気」になっていた。
それから数回、友人と遊ぶ際に「煙草を吸うイベント」をやったのだが、いずれも「吹かし」であり、そんなであるから「煙草が旨い」と思ったこともなく、勿論、常習ではないのだから「煙草を吸いたくてたまらない」こともない。
中学生にアリガチな話だが、煙草なんて只のスリルであり「ワル」な気分を味わえる、最も簡単な方法であっただけだ。よって、煙草なんて自分のそばになくても一向にかまわないし、どうでもよかったのだ。
であるから、今回の呼び出しもピンとこなかった。
「吸っていましたね」
と言われれば
「吸っていました」
となるが「吸っていました」と言うにはあまりにお粗末な吸いっぷりである。とても威張って言えたもんじゃない。そんなレベルなのに、何やかの罰を受けることになるのであれば、
「そんなんやったらもっとちゃんと吸っておけば良かった」と思うことになるだろう。
そう思いながら学校までの道、例によってヘルメットを着用して自転車をこぐあたし。こんな純粋な乙女を、誰が「煙草がバレて今からしょっぴかれに行くヤツ」だと思うだろうか。
あたしの脳天気な気持ちとは裏腹に、コトを大きくしたくてたまらない教師によって、この「煙草吸い密告事件」は、当時のあたしの心にも両親の心にも、大きな傷となる出来事にされてしまうのである。
つづくよ、かしこ。
小日向ヒカゲ
|