昼間、何気なくテレビをみていたら、東京でデビューを飾った知人のCMが流れた。
「こりゃ、いかん」
その足でマイカーに乗って「車を売るならアップル」へ査定に出た。
その夜、親に電話。
「今日車売ってきたからその金で東京へ引っ越すことにした」
あたしの上京はそんなもんだった。
引っ越すことを決めた当初の数カ月は、続けていたバンドが解散しており、知人友人の手伝いをする程度でしかギターを弾いていなかった。
しかしながらあたしはそれまで、名古屋に住んでからは明けても暮れてもバンドしかしておらず、そのせいで「バンドをやっていない自分はここに住むべからず」的な図式が己の中で勝手に出来上がっており、「バンドをするためのバイト」へ行くことすらも、完全に目的を失ったため、逆に焦燥を煽る毎日となっておった。
とにかく一度、全部やり直し。
こずるいやり方だが、あたしがバンドをやっていなくても「最近どうしたの?音楽やんないの?」などと聞かれない場所へ逃げたかっただけなのだ。
なのに。
なのに、上京して間もなくは、何もせずに東京にいることが耐えきれなくなり、タレント事務所のオーディションを受け、受けただけでも充分トチ狂っておるにもかかわらず更に安室奈美恵を歌い、相川七瀬を歌い、更にはレコード会社へ奇怪なオリジナルデモテープを送りつけて迷惑がられたりする日々が続いたのだった。
なんだかんだ理由をつけて、「あたしは普通の女の子に戻ります!」なんて決心したくせに、上京のキッカケは知人の出世を見たからであるし、地道に生きたいなら、何も物価が高く空気群青な東京へ来ずともよいのだ。なんだい、やはり自分は。
自分を表現する場所を見つけなければ、生きている意味を見い出せない人間。こんな人間傲慢至極、精神不衛生、完全病気なのであって、でも自分は正にソレ。
不治の病であれば病人は、己の病と仲良くするしかないって言うじゃん、じゃあそうしましょ、そうしましょ、ってことでもう、今となっては完全に開き直って、マスターベーションでもなんでもいいから押入れ産業、モトイ、押売産業を押し進めていく所存と相成ったのであった。
以後、宜しゅうお願い申し上げ候
小日向 ヒカゲ
|