ドラマ『14才の母』を見ていると、あの頃の自分が妙に重なる。
年齢なんて関係なく、戸惑うものだ。
望んでいたにしてもいざ自分の身に起こるとビビるのが妊娠。
よほど切望していて待ちに待っていたとかいうことでもない限り、
突然の妊娠にオロオロするのは何も男だけの話ではない。
女だって出来てみるまではわからないのは同じ。
本当にそんな機能が自分にもあるとは思えないものだ。
ましてや当事者なのだから、その恐怖といったらハンパない。
自分はこれからどうなってしまうのだろうと、
未知の出来事に不安になるのも極めて自然なことだといえる。
しかし不安定な私をよそに、胎児はとても順調に育っていた。
私が人知れず己の暗い過去と戦って葛藤していようが、
責任という名の無言の重圧で押しつぶされそうになっていようが、
自分の身体がどんどん自分だけのものでなくなってゆく恐怖に、
恐ろしいと怯えていようが、お構いなしだ。容赦ない。
更に、ドSな私は己の身さえ思うようにならないことに、
徐々に苛立ってきてもいた。
「この身体の主人は私だ。お前じゃない!」
いくら言い聞かせても身体の変化は止まらない。
チッ!このわからずやめ!!!
所詮今の私は腹の住人のしもべに過ぎないのか。
結局、無力な私はうなだれるしかなかった。
これはもう実際に経験してみないとわからないだろうが、
とにかく妊婦はしんどい。何もかもままならない。
残念ながら私は今までこんなに急激に太ったことがないので、
まず自分の身体が重くなってゆくことがしんどかった。
しかもただ太るのと違って、
その重さのほとんどは腹にいく。
当然重心がどんどん変わっていく。
重心が変わってくるとバランスを取るのが難しいのだ。
そしてそれをちょっと不自然な体勢で支える足腰にも、
確実に疲労は溜まっていく。
しかも用心して歩くので時間もかかる。
何をするのにもいちいち時間がかかる。
嗚呼、なんという倦怠感・・・!
あとはやっぱり、精神的にもしんどい。
母になることに対しての不安云々を除いても、
やたらイライラするのだ。
どうやらこれはホルモンの仕業らしい。
正直妊婦って、幸福でもっと穏やかなものかと思っていたけど、
動物的なものに何かと左右される生き物なんだなあ。
ピンと来なければ妊娠・出産前後のメス猫を想像してくれるといい。
案外母は、凶暴な存在なのだ。子供以外は皆、外敵。
女性としての悩みで言ったら、
体型が変わることにもナーバスになった。
「こんなんなっちゃって、これ・・・ほんとに元に戻るのかなあ。」
と、風呂に入るたび腹を撫でては呟いていた。
幸いなことにアルジは私の体型のことを、
一度も馬鹿にしないでいてくれたので、
我が家ではこのことが夫婦ゲンカの火種になることはなかった。
が、デリカシーのないパートナーの何気ない一言で、
傷ついたという経産婦はわりと多い。
やはり女性にとって体型の話題は地雷なのだ。
だってね、母になっても女は女ですもん。
てゆーか女は死ぬまで女なんです。
このままオシャレも出来ない体型になったらどうしよう、
そんな私でもアルジは愛してくれるだろうか。なんてね。
でかい腹で並んで歩くのは何となくバツが悪くて、
コイビトと会う回数も自然と減った。
身重とはこういうことか。
文字通り、私はもう身軽ではないのだ。
でも私は母として歩み始めてしまった。
今更引き返せやしない。
・・・つづく
楠本 真夕 (くすもと まゆう)
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