アルジ以外の人への恋を公にしたのは妊娠がきっかけだった。
私だって人並みに道徳心がないわけではないから、
初めはこんなふうにいけしゃあしゃあと恋などしていなかった。
浮気は良くないことだという自覚だってしているし、
出来れば私もそんなことはしたくない。それは本心なんだ。
でも惚れてしまうのだ。開き直るというよりはほとんどもう降参。
気持ちのブレだけは意志の力でもどうすることも出来ない。
抑え込むのに必死で、けれど熱に浮かされて、
結局いつも翻弄されてしまう。そして自己嫌悪・・・の繰り返し。
私は大抵、自分自身の気持ちに踊らされていた。
そんな秘密の恋が幾度か続いた後、
私はついに問題の大恋愛をした。
アノヒトは付き合って6年にもなる恋人と同棲していた。
アノヒトの恋人から私はなぜか妙に気に入られていて、
私もまたその彼女のことを嫌いではなかった。
すでに恋仲だったが平然と私はその家に遊びに行き、
よく泊り込んでいた。思えば最低だったと思う。
珍しく略奪する気満々だったしね。
しかもあまりにアノヒトにのめり込んでいた私は、
もうすっかりアルジとも終わる気でいたりして。
アルジとの別れを真剣に考えた相手は、
後にも先にもアノヒトだけだったなあ。
だけど子供が出来たとわかったとき、
これはもうだめだと思った。もはやこれまで、と。
その頃の私はもうアノヒトとしか致していなかったので、
おなかの子は確実にアノヒトとの子供だった。
それでアノヒトとアルジの両方に、正直に告げた。
私は両方と別れるつもりで腹をくくっていたんだ。
でもアルジはこう言った。
「ひとりじゃ行きづらいだろ。俺が病院に付き添ってやるよ。」
最後まで、不義理な私を一度も怒らなかった。
罪悪感と引け目、それからアルジの偉大さと優しさに泣けた。
・・・つづく
楠本 真夕 (くすもと まゆう)
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