診察台におけるあの屈辱的な格好は何度やっても慣れない。
スティック状の超音波の機械で中を探られ、顔をしかめていると、
それがやがてヒトになるだなんて、想像も出来ないような、
さなぎのような稚魚のようなものがモニターに映った。
なるほどへんてこないきものが私の中で確実に巣食っている。
この時点でははっきり言って愛せない造作。ただのいきもの。
けれども不思議とすでに迷いなどまるでなかった今回、
私はその存在を目にした瞬間から、心が薔薇色になり、
興奮する気持ちを抑えられなかった。どうしても顔がニヤけてしまう。
「いた!本当にいた・・・!やっほう!!」っていうのは、
さすがにキャラ的に自分の中だけに留めておいたけれど、
多分すごく嬉しかったのはアルジには完全にバレていたと思う。
そしてそれはコイビトも同じだったんじゃないかな。
産婦人科はやっぱり、産む人が行くべきところなんだ。
産まない人や産めない人にとってはあの待合室の長椅子は、
相当いたたまれない空間でね。人様の幸福オーラに当てられては、
罪悪感と悲壮感とを余計に煽って、透明になりたいと思ったほどだ。
病院では7週の半ばだと言われた。もうすぐ3ヶ月ってとこらしい。
数日後、久し振りに私は手帳を買って、そこに日記を毎日欠かさずつけた。
幸いなことに、つわりは大してひどくなかった。
二日酔いのような症状で連日胸のあたりがもやもやしていただけで、
別に吐かなかったし、やたら喉が渇くのと眠すぎるのを除けば、
本当にあっさりしたものだった。
そういえば一時だけ強烈な頭痛に悩まされたっけなあ。
しかし私にとっては肉体的なことよりも精神的なことのほうが、
ずっとずっと重くのしかかった。
感情的になったりナーバスになることは多かった。
多くは金銭面の心配と子育てへの不安、
それから・・・、DNA鑑定の問題。
自分で決めたこととはいえ、常に恐れは付きまとった。
もしもこの子の半分が不本意な3分の1だったらどうしよう。
それでも私はこの子を愛せるだろうか。
バファリンみたいに残りの半分が優しさだったら素敵なのに!
なーんてサムい冗句でさえも、当時は考える余裕がなかった。
明らかに他の人に似てきたらアルジはどうするだろう。
良くない『if』ばかりが幾度となく私を襲った。
言葉にすれば陳腐になってしまうけど、そうなったらそうなったで、
それも自分の運命なのだと思おう。受け止めよう。
私は自分に必死で言い聞かせた。
・・・つづく
楠本 真夕 (くすもと まゆう)
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