だいたい、私みたいな女が結婚なんかしちゃったこと自体、どうかしてるのだ。
私は元来惚れやすく自己中心的、そのうえ退屈が嫌いなので、
おとなしく枠にはまっていられない。思えばこれは結構致命的な欠陥だった。
つまり結婚などというシステムにはとことん不相応なオンナ。
残念だがきっと誰が見ても、向いていないと言うに違いなかった。
みんなと同じように・・・フツウに生きようとすればするほど、どんどんズレていく。
そんなはずじゃないのに奇異な目で見られ、非常識だと非難される。
フツウって何だろう。私はまともじゃないのか。生きるって、なんて窮屈なんだろう。
でもだからこそ私は、ずっとフツウっていうやつに憧れ続けていた。・・・漠然と。
バイト先でアルジを一目見てピンと来たときにも、私にはすでにカレシがいた。
乗り継ぎがうまくいっていたので、19の時から私に恋人が途切れたことはない。
でもがんじがらめの相手に相当疲れていたんだ。ちょうど苦しいときだった。
だから放任で、構わないタイプのアルジが、オアシスに見えたのは言うまでもない。
相談に乗ってもらったり、気晴らしに付き合ってもらっているうちに、
想いは確かなものになった。というより初めから私は狩る気満々だったしね。
けど、あの日カレシとケンカするまでは、どうにかなろうだなんてふうには、
全然考えていなかったんだよ。本当に。
その頃私の家にはカレシがほとんど居ついて・・・いつの間にやら半同棲、
ケンカをしたら行き場がなくなった。元はといえばそこは私の家なのに。
そうして私はアルジの家に避難させてもらい、結局カレシとは別れ、
思い出のつまった忌まわしいアパートは引き払った。
そんなわけで、私はそのままアルジの家の住人になったんだ。
私たちは始まるより先にもう共に暮らしていた。だから生活は自然だった。
アルジは出会ったときからずっと私の救いだったというわけ。
アルジは私をいつでも自由なまま、ありのままでいさせてくれる人だった。
彼だけは、私を常識や形式に縛ることなく、そのままの形で受け入れてくれた。
それでアルジとだったら、結婚してもいいかなと思えたんだ。
結婚も、一度くらいならしてみても面白いんじゃないかと思った。
結婚だって永遠じゃないことも多いだろうけど、そしたら別れちゃえばいい話だ。
なーに、ちょっと戸籍に傷がつくだけさ。それもまた経験としては面白い。
だって、結婚しなきゃ離婚も出来ないんだから。離婚は結婚したものの特権。
いい掘り出し物を見つけた。そういって私は照れ隠しによく毒づいてしまう。
アルジは「そうかもな」と言ってやわらかく笑う。私の悪態になどこだわらない。
アルジに出会えなければ私は、結婚なんて出来なかっただろうと思う。
だって私は結局、婚姻後も恋することをやめられなかったのだから。
・・・つづく
楠本 真夕 (くすもと まゆう)
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