アルジの子かも知れないなら諦めきれない。
だって私はやっぱりアルジが好きだから。
それに私は過去に一度、中絶を経験していた。
あのときはアルジとの子ではなかったけれど、それでも命は重かった。
何度も心で詫びながら、悩み抜いてそうすることを選んだ。
すごく苦しい別れだった。もうあんな思いは二度としたくなかった。
・・・かといって。
不本意なカウントが確率に入っている以上、
手放しで喜ぶことも出来ない。まるで悪夢のようだ。
あれは忘れたい過去だったのに。これは罰なのだろうか。
生まれてきた子がもしもその人に似ていたら、
私はその子をちゃんと愛せるのだろうか。
それ以前に、果たして私が親としてやっていけるのか。
自信がない。恐い。私の身体はすでに、
私自身を不自由にしようとしている。
あの日。私はあまりにも考えをめぐらせることばかりに夢中で、
本当は周りのことなどほとんど憶えていない。
私がそうしている間、コイビトがどうしていたのかも、
時間の流れ方がどうだったかも、その後どうしたのかも。
本当に大して憶えていないのだ。そのくらい余裕がなかった。
でもあのとき、私は必死に考えて、考えて考えて考えて、
それでも結論は何度でも同じところにたどり着いた。
「やっぱりどうしても諦めたくない。産みたい。」
こうしてついに私は降参し、決心を固めた。
「非常識なのは百も承知してる。でも産ませてください。」
アルジはこの状況を何もかも知っている。
コイビトもまた、ほとんどを理解していた。
だけどアルジもコイビトも、返答は同じだった。
「そう言うと思ったよ。」
お前がそう言うなら、しかたない。
そんなムードですべてが片付いてしまった。
揃いも揃って、なんて愚かな男たちなのだろう。
愛とはときに人をとても愚かにする。
だけども私はそんな愚かさを嫌いではなかった。
なぜなら私もまたそんなふうに、愚かだったからだ。
かくして私たちは出産するまでこの真実を、
私の女の親友ただ一人を除いて、他の誰にも話すことなく、
強引に出産へと踏み切ったのだった。
私とこの腹の中の命と、私たちの関係を守るために。
私は、わざわざこんな状況を選んで居座った腹の命にも、
きっとそれなりの事情と理由があるのだろうと信じてた。
月並みだけれどこれこそが、私のウンメイなのだと確信した。
タバコはその翌日からすっぱりやめた。
以来私は、一本たりとも口にしていない。
・・・つづく
楠本 真夕 (くすもと まゆう)
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