こっちだって、好きでこんな生き方してんじゃねえんだ。
でもさ、しょーがねーんだよ、
どうにもこうにも、あんな仕事、たまんねえんだよ、やってらんねーんだよ。
そう、いつものセリフを吐き、
俺は、また仕事をやめる。
どうして、こんなにうまく生きれなくなってしまったのだろう。
どうして、こんなに惨めな男になってしまったのだろう。
安酒をあおり、ゲロを吐き、夜中の自動販売機に蹴りを入れ、
路地裏のゴミ山で目覚め、いつも、そう思う。
仕事をするということに、どうしても、耐えることができない。
何をやっていても、ばかばかしくなってしまうし、
上司がどんなに、えらそうに、企業とは、社会とは、
と説教をしてきても、全て、都合のいい嘘にしか聞こえない。
そして、結局は、何をやっていても、その、ひどい、
人間とは思えない待遇に、激しい怒りを覚え、
やめる。
どこにも3ヶ月と、いたことがない。
夜毎、夢の中で、ロックンロールヒーローは、こう言う。
この世界は狂っているんだと。
狂った世界で、生きる人間に、選択肢は二つしかない。
抗うか。
従うか。
お前はどっちだ!!??
だけど、今の俺は、うまく、抗うこともできないし。
うまく、従うこともできない。
あんた、インディアンランナーっていう映画、見たことあるかい?
携帯電話が鳴る。
生きるために、新しく登録した派遣会社からの電話だ。
引越しのバイトだそうだ。
日給8000円、交通費なし。
やりますか?
やるもやらないもない。
やらないと飢え死にだ。
選択肢なんか最初からありゃしねーじゃねーか。
ピンハネ野郎たちが。
”おい、バイト”
引越しの現場では、
いい年をした男が、そう年下野郎に、呼び捨てにされる。
その悲しみ。
その悲しみの代金が、8000円。
俺の悲しみは8000円。
そして、今日も世界は、8000円交通費なしの悲しみで埋め尽くされる。
身も心もうちひしがれた野良犬どもが、
夕暮れを歩く。
吠えることもできなくなった、野良犬どもが、
夕暮れを歩く。
アパートに戻り、
焼酎を飲みながら、手を見つめる。
何もしてこなかった手。
何も手にいれられなかった手。
寒い部屋の中、そっと、こすりあわせ、少しだけ両の手を暖かくする。
でも、まだ、俺は俺を。
俺は俺だけが俺を少しだけ暖かくしてやれる。
俺だけが。
いい話があるんだよ。
酒臭い息で近づいてきた、あいつの話はこうだ。
”オレオレ詐欺やろうぜ。
金持ちのじじい、ばばあから、金とってやるんだ。
いい先輩がいてさ、雇ってくれるっていうんだよ。
金を取られるがわから、金を取るがわに回ろうぜ!”
こんなクソみたいな世界から、おさらばする、
チャンスだぜ。
俺達が、変わるチャンスだぜ!!!
なあ!
興奮して喋りかけてくる、あいつ。
だけど、俺は、その話を、はなにもかけなかった。
”ケッ!一生、そうやって、変わることなく、バカ正直に生きてろ!!”
捨てゼリフとともに、
話を断った俺のことを、あいつは、哀れむような、
バカを見るような目をして去ってゆく。
だけど、しかし、
俺は、やはり、もう少しこのままでいいんだ。
このダメ野郎のままでいいんだ。
このままでいることこそが、
これからの俺にとって、
そして、これからの誰かにとって、
とても大切なことのような気がするんだ。
変わるんじゃない。
俺が、どうしたら、
このままで生きていられるようになるのか?
ああ、
なぜか、わからないけど、それが俺にとって、
この世で、一番、大切なことのような気がするんだ。
なぜかね。
|