すすり泣きの聞こえる中、神妙な面持ちで線香を手向ける俺と妻・・・
突然の集合命令に駆けつけると、そこにはすでに同じ組の人たちが
集まっていた。
ほとんど初対面の人ばかり・・・
おもむろに一人が立ち上がり、話が始まった。
「みなさん、ご苦労さんです。
明日がお通夜ですので、男衆も女衆も9時に集まって下さい。
明後日の葬儀に関しては、また明日の終了後に連絡します。
それでは、二日間よろしくお願いします。」
おいおい、二日間って・・・
だって明日は平日でしょ?
みんな仕事どうするのよ・・・
近所の長老に聞いてみる。
「あぁ、俺たちは外で一日中手伝いだから、普通の格好でいいよ。
女衆は炊き出しをやるから、そのつもりで。
細かいことはあそこのおばさんに聞いてみて。」
というわけで、結局二日間子供を預けて手伝ったお葬式。
準備、後片付けと、わいわいみんなでやるうちに顔見知りも
増えて、それなりに地域に溶け込むきっかけにはなった。
その後も、上棟式、結婚式、レクリエーションと立て続けに集まりがあり、
結構田舎ぐらしも楽ではないのだ。
まあ面倒なこともあれば、楽しいこともある。
桃やぶどうの季節には、近所の人が出荷出来ない分を持って来て
くれたり、子供たちを連れてバス旅行に行ったり。
ただ、千葉まで仕事に通うのは大変だった。
結局平日は千葉の実家に泊まって仕事。
週末だけ山梨の自宅に帰る生活だ。
かわいいさかりの子供ともあまり会えないので、写真を撮るようになった。
そうすれば、いつも眺められるし。
どこの親でもそうだろうけど、子供が小さい頃は泣いたといったら撮り、
笑ったといったら撮り・・・
気が付いたら、とんでもない写真代だ。
もちろん自分のコンビニでもDPEは受け付けているけれど、
仕上がりは翌々日になってしまう。
でも、撮ったらすぐ見たいのだ。
ということで、うちの店の向かいにあるPという23分仕上げの
大手チェーン店に出すことになる。
当然たちまち常連だ。
だって本数が凄いもの。
またそこの店員さんたちが接客じょうずで、
「お子さん、かわいいですね〜」
なんて言ってくれる。
写真のプリントは機械がやってくれるみたいだし、あとはニコニコ
お客さんの写真をほめてあげればいい。
しかも営業時間は10時から19時まで。
こんないい商売は他に無いんじゃないか・・・
うちの24時間に比べれば、9時間なんてなんてことはない。
しかもこのチェーン、業界最大手で社長もよくテレビや新聞に出ている。
自分の店だったら、写真代もかからないし。
よし、やってみるか・・・
冷静に考えれば、コンビニ一軒で通勤に苦労しているのに、
ここで他の店を始めるなんていうのは、それこそ無謀というもの
だったのである。
しかし目の前に新しいおもちゃが転がってきた俺には、
明るい未来しか見えないのであった。
つづく
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