つらい事も多かったコンビニ経営。
思ったようには売上も上がらない。
とりあえず八百屋を改築して始めたので、家賃はかからない。
だから少しは利益も出せた。
やがて店舗運営に慣れてくるに従って、余裕も出てきた。
片腕となるような従業員さんも育ってきて、少し自分の時間も
とれるようになって来た頃、次のおさそいがやって来た。
本部店舗開発の担当者が2店舗目の物件を持って来たのだ。
当初からどんどん店を増やそうと思っていた俺は、まんまと
このエサに飛びついてしまった。
今の店から車で10分。
何かあっても、すぐ行き来出来る距離だ。
しかも駅前で売上も見込める。
家業の八百屋から脱皮して事業を起こしたかった俺にとって、
願ってもない物件だった。
30歳そこそこで2店舗目の出店。
予定通りの展開だ。
1店舗目をベテランの従業員さんにまかせて、自分は
2店舗目の近くにアパートを借りてこちらに張り付いた。
とはいえ、金銭管理は自分がしなければならない。
一日に何度も往復した。
おそらくこの頃が一番忙しかった時期じゃないだろうか。
だいたい寝る時間以外は店にいた。
コンビニの場合、ひまな時間というのはなかなかない。
一日中何かしらやる事がある。
商品を発注したり、納品された物を陳列したり。
もちろん、その間に接客もこなさなければならない。
24時間営業していれば、当然いろんなお客さんが来る。
パトカーを呼んだ事も何度かあった。
店に入って来て、いきなり弁当のパッケージを破って
食べ出したおじさんがいた。
唖然として見ていると、次から次へと弁当を開け出す。
無銭飲食だった。
若者が何人も入って来て、ポケットに品物を入れ出した。
注意しに行ったら逆に食って掛かられた。
おそらく未成年だろうが、かなり酒が入っていた。
結局、品物を投げ捨てて出て行った。
こんな事もあった。
朝、夜勤と交代するために店に行くと、
「店長、あの子昨夜からずっと本読んでるんですけど・・・」
見たところ中学生くらいの男の子。
さすがに声をかけた。
「あのさぁ、あんまり長い立ち読みは困るんだよね。
家に帰らなくていいの?」
「・・・すいません。」
泣きそうな顔をして出て行った。
後でビデオを見たら、昨夜11時頃からずっと本を読んでいた。
そんな忙しくも刺激に満ちた毎日を過ごしながらも、
生来が移り気な俺は、次の事業のヒントを得ようとあちこちの
セミナーに出掛けて行った。
そんな中で出会ったのが、地方の中堅スーパーながら
世界各地で店舗展開していたY社のW社長だった。
前から著作を読んで、自分と同じ家業の八百屋から
世界へと羽ばたくW社長は、俺にとってあこがれの存在だった。
そのW社長がいよいよ中国に進出するというのだ。
その詳細を自らの口で語るというので、勇んで参加した。
目の前で壮大な夢を語るW社長の姿には、後光が射していた。
そうだ、これからは中国だ!
俺も中国へ行って何か事業を展開しよう!!
セミナー終了後W社長と名刺交換した俺は、その場で
Y社が中国上海に建設中のショッピングセンター視察
ツアーに申し込んでいた・・・
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