ツケは重かった。
バイトに夢中だった大学4年間。
果たして卒業出来るのか・・・

最後の試験、とにかく必死になって取り組んだ。
答案に何か書ければいい。
埋めておけばなんとかなるんじゃないか。

結果・・・なんとかなった。
数日後届いた卒業式のお知らせ。
半信半疑のまま武道館で行われた式典に出席し、
学校に戻ってから受け取った卒業証書。
確かに自分の名前があった。

あっという間だった学生時代。
だけど就職は決まっていない。
結局行く所もない俺は、家業を手伝う事になった。
八百屋デビューだ。

しかしこの仕事、思っていたより大変だった。
朝は5時に起きて市場へ行く。
そして店は夜10時まで営業。
それから片付けだ。

学生時代、夜遅く居眠りしながら晩酌をしている親に
よく言ってたもんだ。

「そんなに眠いんなら、酒なんか飲まないで、
もっと早く寝ればいいのに。」

まぁ、自分でやってみて、少しわかったような気がする。
朝から晩まで一日中立ちっぱなし。
しかもお客さんにはいつも笑顔で接しなければならない。
酒ぐらい飲みたくなるよな・・・

そんなこんなでスタートした八百屋生活。
朝は親父と二人で仕入れに行く。
親父が競り落とした品物を車に積むのが、俺の
最初の仕事だった。

とにかく品物の良し悪しも見ることが出来ない。
品物を仕入れるための競りの符丁もわからない。
符丁っていうのは、市場で品物を競る時に競り人に
対して金額を指で示すわけだ。
それを競り人が見て、一番高値を示している買い手に
品物を売る。
「チョンブリ！　バンド！・・・」

あっという間に競りは進行していく。
品物が落ちると、競り人はその品物の上に
落とした八百屋の番号を書いた札を置いていく。
よく八百屋がかぶっている帽子に付いている番号。
あれがその八百屋の番号だ。
まあ車のナンバープレートみたいなもんだ。

俺は自分の番号が書いてある品物を探して、
トラックに積み込んでいく。

市場から帰ると売り場の準備だ。
玉ねぎやジャガイモなどを小袋に詰める。
葉っぱものを水で洗ったり、漬物を出したり・・・

とにかく水を使うので、冬場は手がしもやけで
グローブのようになってしまう。

売り場作りが終わると、今度は配達だ。
カブに野菜を満載して、あちこちの店を飛び回る。
当時まだ数店舗しかなかったイタリアンレストラン
「サイゼリア」もお得意先だった。
レタスや玉ねぎをいっぱい使ってくれたっけ・・・

配達が一段落すると、もう夕方だ。
店が一番活気付く時間。
ひたすら愛想をふりまきながら、売りまくる。

へとへとになりながらも、ようやく店を閉めて、
片付け終わるともう11時。
また明日も5時には市場に向わなければ・・・

そんな生活を続けながらも、親父からもらえる給料は
小遣い程度。
そりゃそうだ。
俺が入ったからって、売上がいきなり上がるわけもない。
売上が上がらなければ、今までの利益から少し小遣いを
もらうしかない。

「一人前になるには、十年くらいかかるぞ。
　それまでは、とにかく体で覚えるしかないな・・・」

その頃おやじから言われた言葉。
このまま十年間も野菜を運ぶのかよ！

とにかく自分の金を稼がなくっちゃ・・・
あせりを感じていた俺は、いろんな商売を
研究しだした。

ある日そんな俺の前に、前途洋洋たる未来を感じさせて
くれるような商売が現れた。

一年中綺麗で快適な店、あかぬけた制服。
夜遅くまで大勢のお客さんで活気付く店内。

それが当時流行りだしていたコンビニエンスストアだった・・・

このコンテンツを読んでの感想を是非お気軽にお寄せください。

皆様の声はきっとフリースタイラーたちの明日への糧になることでしょう！！