田舎暮らし・・・
なんという甘美な響きなんだろう。
都会の喧騒から逃れ、自然のささやきに耳を傾けながら
日々を生きる。
食卓には採れたての野菜。
子供達は野山を走り回り、たくましく育つ・・・

そんな夢を見ながら、俺は山梨に越して来た。
なぜ山梨なのか・・・

最大の理由は、妻の出身地であるという事。
子供がやっと１才になったばかりの俺たちにとって、
やはり実家が近いというのは、何かと助かるのだ。
そして千葉にも通える距離。
片道3時間かかれども、いざとなったら日帰り出来る
というのは、非常に大きい。

とはいっても妻の実家は千葉とあまり変わらない
市街地なので、田舎らしさはない。
そこで物件探しだ。

実は候補地はすでにあった。
イタリアやフランスの車が大好きなラテンかぶれの
俺にとって、キーワードはずばり「ワイン」！
そう、山梨といえば日本を代表する葡萄とワインの
産地、勝沼があるじゃないか。

結局何度も現地に足を運び、あれこれ悩みながらも
この地に住まいを求める事になった。

小高い丘の中腹。
周りを葡萄畑に囲まれ、窓からは南アルプスの山々が望める。
夏には桃、秋には葡萄と四季の果物には事欠かない。
そんな勝沼に小さな家を建てて家族3人移り住んだ
のは、まだ春浅い3月の事だった。

さあ、これで待望のライフスタイルがおくれるぞ。
仕事は都会（といっても、千葉だけど・・）、週末は
田舎での二重生活。
オンとオフを切り替えて、思いっきり人生を楽しむぜ！

そんな意気込み満点で始まった新生活。
引越しの荷物も片付いて、ホッとしたある日の午後、
地元の世話役という人が訪ねて来た。

「あの〜、ここに越して来たんだから、組に入って
　もらいたいんだ。
　それでさっそくだけど、葬式が出たんで今晩7時に
　集まってくれるかい？
　明日通夜で明後日葬式だから、二日間身体開けといてね。
　奥さんもだよ。」

組？　葬式？　二日間？
なんで俺たちが・・・？

わけのわからないまま、妻の実家に息子を預けて
とりあえず呼ばれた家へでかけて行った俺たち夫婦。

そこで田舎暮らしの現実に直面する事になるとは・・・

つづく

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