目を覚ました日曜日の午後。

前の日の晩は朝まで騒いでいて、夢と現実の境目をハッキリと覚えていない、そんないつもの日曜日の寝起き。支度をしなきゃ、今日は「TOKYO ROLLING LIFE」の「旅立ちの日」、山手線巡りの一日目。眠いのはわかる。しかし、立て、立つんだ誠一朗。前回、公言したじゃないか。「僕、山手線回っちゃいます」なんてアホの顔して、本気の心で。

それで、いきなり「中止」じゃ格好がつかない。
もともと格好良くはないんだぜ、せめて、ヤルと言ったコトはやってくれ、誠一朗。
なんて、自分で自分にお願いして、炎の起床。
燃える俺、速攻で着替え、身支度を整える。完了。外に出る。寒さの度合いがアラスカだ。
一度、戸を開け、部屋に戻る。

「おっおい、聞いてないぞ。なんだこの寒さ。こんな中、目的も持たずに電車に乗ろうってのかい？頭狂ってんじゃないのかい君は、僕は嫌だね、降ろさせてもらうよ。こんな寒い日曜日にみすみす外に出て、見ず知らぬの町へ出かけるなんて、茶番だ、茶番。道中、凍って、病院に運ばれて凍死って診断されるのが目に見えてる。僕は行かないよ。」なんて、悪しき心の僕が、僕に囁く。

いつもの僕なら、「そうだね、悪一朗君、何もこんな日に外に出るコトはないよ、僕はそんなに馬鹿じゃない。死ぬってわかってて、死にに行くヤツは馬鹿だよね、茶番だよね。」とか言って、うっかり守りに入っちゃうんだが、今日の僕。男前。

「馬鹿言うな！何？寒いから行かない！？馬鹿も程ほどにしろ！何を言ってるんだ、お前は、幼稚園の頃と何も変わっていないじゃないか！自分でヤルって言っときながら、結局は弟や、妹にやらせてばっかりで！少しは進歩しろ！そんなんじゃいつまで経っても、一人前になれないぞ、お前は一生、勃起しないポコチン野郎だ！」って、自分で自分に喝を入れた。

せいっ！！と一発気合いを入れて、派手に開けた玄関。
冷たい風が部屋に流れ込む。
せいっ！！と一発気合いを入れて、派手に外へと足を出す。
冷たい風が身体を包む。
せいっ！！と一発気合いを入れて、地味に一歩、一歩を踏み出し始める。
冷たい風が行く手を遮る。

せいっ、せいっ、せいっ！！
往来にこだまする、僕の気合い声。
寒さにヤラれて、こみ上げる涙。

グシュン、グシュン、泣きながら。
僕は、駅へと向かい歩いている。

母親に怒られて、愚図る子供のように歩幅は狭く、後姿が哀れに思えてくる。

それでも、なお諦めずに前へと進むその姿は。
友を想い、友の為に千里を駆け抜けた英雄「メロス」を思い出させる。

俺、メロス。
TOKYO ROLLING LIFEを読んでくれて、「楽しみにしている。♪」「頑張れ。♪」「ほんと、面白い。♪」「別に付き合ってもいい♪」なんて、思っていてくれてる人の為にも、僕は「メロス」。メロスな僕。

立ち止まるコトや、後戻りするコトはもうない。

．．．そして、僕は駅へと辿りつき、涙でうまく見えない「乗車券販売機」の前。

アノ駅までの切符を、僕は買った。

〜続く〜


次回、誠一朗が初めて訪れた場所で、知らされるコトになる「運命」。
東京ルーキーな僕が見た、29分の1の「駅から見た風景」
お楽しみに。

今日の今日のBGM
雪が降る町　/　ユニコーン