「君の瞳に乾杯、君と出会えた僕は地球一の幸せ者だよ、ほら、夜空を見てごらん、星たちも僕らを祝福しているよ。」

「誠一朗さん．．．」と、照れ臭そうに女は微笑み、乾杯直後のグラスを口元へと運んだ。

「あっ、君が飲んでるそのワイン、僕等が生まれた25年前にフランスのボボビッチ地方で作られたワインなんだ。」

「．．．えっ？じゃぁ、このワイン、25年前のワインなの？フフッ、私たちと同じ年のワインなんて、なんだか素敵ね。」

「喜んでもらえて嬉しいよ、君のその笑顔が、喧騒とした日常の疲れを吹き飛ばしてくれる．．．ほんとに、君に出会えて良かった。ありがとう。」

「．．．セイイチロウさん。ハート」
ってな、粋な会話をしてみたい年頃になりました、誠一朗、今年25歳（後厄）な僕。

やっぱり25年も生きてるんだから、25年前のワインでも飲んで、大人の女性としゃらくさく酔いたいもの、クルーザーの上で。
いや、でも僕、今、彼女なんていないしな、ましてや大人な女性なんて、僕のコト見向きもしてくれないよ、うん、まだ早いな。いや、でも今のうちからイメィジトレィニングを怠たっていては、いざという時に役に立たないのではなかろうか。それじゃ、クルーザーを貸し切って、ナイトクルージングと洒落こんでも意味がないではないか。

そうだ、日々の積み重ねが、いつかのナイトクルージングに繋がるんだ。
そうだ、JAZZとか、流れてるムーディな場所で、慌てふためいていたら、ダサい。海に飛び込んで、笑いを取っていたほうがマシだ。そうだ、練習しよう。
クルーザーの上で25年前のワインを飲む練習をしよう。そうだ。そうだ。
練習だ。

というわけで、わずかながらの硬貨と煙草をポケットに詰め、外に出た。
そんな時の僕の表情は、まるで韓流スタァのやうにさわやかで、希望に満ちている。
25年前のワインを買いに街へ出た。



しかし、街と行っても東京は高円寺、電車に乗れば新宿まですぐに着く。でも、大の電車嫌いでブロッコリー嫌いの僕にとって、休日に電車に乗るなんて愚行、自らライオンの巣の中に、食べかけのポテトチップスを取りにいくようなもの。そんなコト、恐ろしくて考えただけでも泣けてくる。電車には乗りたくない、乗りたくないもの。

くそぅ、このままでは、25年前のワインを手に入れるコトは不可能だ。
いや、希望はまだ捨ててはいない。高円寺で探せばいいのだ。そうだ、灯台モトクラシー。簡単。
僕は意気揚々とした表情で高円寺のパンクスや、古着少女とスレ違いながら。一路、酒屋を目指した。

そして、僕は「TSUTAYA」に入った。最初に断っておくが、「SAKAYA」ではない。

ズカズカと店内を進み、カタカタと奥の階段を登り、コソコソとアニメコーナーに潜入。手に取ったのは「ドラえもん、のび太の宇宙開拓史」。



公開されたのは81年。僕の生まれた年だ。
劇場公開第2作めの「ドラえもん、のび太の宇宙開拓史」配給収入は17億円5000万円、観客動員数360万人、驚異的な数字だ。
迷わず、手に取り、レジへと向かう。そのまま、早歩きで家に戻り、DVDをセッティング。心躍る。

コーヤコーヤ星のロップル君は優しくて勇敢な少年なんだ。
ロップル君のペットのチャミーはピンク色の毛に身体中を覆われていて可愛い。
妹のクレムちゃんの笑顔も素敵。
のび太は相変わらずのいじめられっこなんだけど、射撃の腕は最高で、しずかちゃんは優しいし、可愛いし、25年間、変わらずのヒロイン。
スネオは、嫌なヤツ。ジャイアンはいざという時に頼りになる、偉大なるイジメっこ。
そして、僕等のドラえもん、今もあの時と変わらずに、みんなから愛され、「One for all,All for one」な猫型ロボット。ほんと、いい映画だったよ。
ドラえもん、のび太の宇宙開拓史。
25年の歳月が経っても色褪せるコトない作品、中でも、最後の「お別れ」のシーンは映画作品の中でも髄一といわれるほど、素晴らしい出来。

ぜひ、皆さんも家族でご覧になられてはいかがでしょうか？

さて、ワインやら何やらクルーザーやら、戯言をほざいていた僕ですが。
25年ものを探す前に．．．

「下戸」だっつーの、俺。

ビールすら飲めないし、カシスオレンジでよろよろだっつーの、俺。

でも、そんな下戸にも、誰にでも夢を見る権利はありますもの。
最初から飲めないのは知っていて、クルージングの夢を語りました。はい、はい。

そら、夢見ますわ、ナイトクルージングwith大人の女性、真っ赤な口紅。

下戸で子供な僕には「ドラえもん」で充分だっつーの。
というわけで、SAKAYAよりTSUTAYAにて、25年ものの「ドラえもん」を借りましたとさ。

なんとなくの寂しさと、哀愁に包まれながら、本日は筆を置かせていただきます。
それでわ、またお会いしましょう、

冬の終わりの夜空の下、そんな効果なワインよりも、君の笑顔が一番、僕を酔わせてくれるんです。

合掌

今日のBGM
「きみだけを【ウルフルズ:stupid and honestより】