Vol.3 「 ニセ物乞いを追いかけた 」
ひゃー、前回書かせて頂いてから、気づけばもう2ヶ月ぐらい経ったんですかね。いや、もっとかも。時の流れが速い!
で、前回書いた「地下鉄車内のミュージシャン」なんですけど、さっき電話してみました。
ビーッ、ビーッ、ビーッという外国っぽい発信音が続いて(あー、出ないかも…)と思っていたら「ウェイ?(もしもし?)」と男の声。おお!出た!と感動しつつ、
・地下鉄の演奏は素晴らしかった
・最近はやってないの?
・今どこにいる?
・話を聞きたい
という旨を軽く説明した。あいにく「最近はあんまりやってない。今は浙江省(上海から2時間ぐらいのとこ)にいて、上海には来月帰る」とのこと。仕方ない。「来月またかけます」と言って電話を切った。
なので、ほかに何か書くことないかなぁと考えていたのだが、「これは是非伝えておきたい!」ということがあったのを思い出しました。
だいぶ前の話(2009年11月下旬)で、当時自分のミクシィとかにも書いた話ではあるんですけども…、
上海にはあやしい物乞いがたくさんいるんです!
もちろん中にはフツーに物乞いやっている人もいると思うので、一概にはいえない。でも、明らかに「アンタ本当はそんな困ってないでしょ!」という人たちもいる。
今から2年ほど前。確かHSKという中国語の試験(TOEICみたいなやつ)を受けた帰り道だった。会場は「徐家匯(シュイジャーフイ)」という名のちょっとした繁華街エリアで、日本で言うなら池袋とかそんなような感じ。
(とりあえず家帰るかー)と思って地下鉄の駅の方に向かい、大きなスクランブル交差点で立ち止まっている時だった。
「ニイハオ。ほにゃららほにゃらら」
いきなり誰かに話しかけられ、ん?と思い振り返ると、2人の女。
年は20歳ぐらいで、大学生1年生ぐらいのあどけない感じ。1人はスラリとした美人で、もう1人はジャイ子風。話を聞くと、「仕事を探しに田舎から出て来たんだけど見つからない。金を使い果たした。昨日から何も食べてないので腹ペコ。何か買って食べさせてくれ」とのこと。
美人の方は茶髪にピアスでダウンジャケットとか着ちゃってて、とても貧しそうには見えない。明らかに怪しい。
実はこの数日前にも同じような2人組(その時は老婆と娘)からほとんど同じように声を掛けられ、怪しいと思いつつもパンを買ってやり、その後「実家に連絡を取りたい」というので携帯電話を貸してやったら「ああ助かりました」と言って泣いて喜ばれるという経験があった。
胡散臭いとは思いつつも、泣いて喜ぶ様子は演技にしてはでき過ぎで、(ひょっとしたら本当に困ってたのかも…)と思ったりした。
なのでこの日は物乞いが一体何者なのか、
真偽のほどをシッカリ確かめてやろうと思ったのだ。まぁ茶髪とかいう時点でいかにも怪しいのだが…。
ひとまずカモの振りをして話を聞こうと思い、近くの食堂に入った。
3人でワンタンと小籠包などを食べしゃべっていると、だんだんお互い打ち解けてきて、日本のことを聞いてきたりした。僕の中国語がおかしかったりすると、結構笑いも生まれたりした。
だが「アハハハハ!」と笑いが起きて一呼吸置いたところでジャイ子の方が急に物乞いモードに戻り、「デンシャチンヲクダサイ…」と暗―いトーンで話しかけてくる。
わざと泣き声を作って鼻をすすったりしているのだが、演技に没頭しきれず「デンシャチンヲ…うーふっふやだーもう!」みたいな感じになって隣の美人の友人をはたいたりしている。
2人が実家へ帰るには片道80元×2人分で合計160元。その電車賃を貸してくれと言っているのだ。
「200元くれたら、後で銀行に300元振り込む」とのこと。もちろんそんなの信じられるわけない。
聞けば2人は姉妹で、安徽省蚌埠市五河県小王村28号というところに住んでおり、ジャイ子は楊利那、美人は楊心雷という名を名乗った。
僕は「うーん、200元か〜」となんとなく思わせぶりな雰囲気をかもしつつ、相手の素性をさらに聞いていくことにした。
「身分証見せて下さい」
拒まれるかと思ったが、意外と素直にジャイ子が出してきて、写真もすんなり撮らせてくれた。だが、身分証にはなぜか「張曼」という別人の名前が書かれ、住所もさっき言っていたのと違う。顔もあまり似ていない。なんか偽造っぽい。
だがこっちから問いただす前に
「私、名前2つ持っているの」と臆面もなく言われ、突っ込む気力も失せた。
そうこうしゃべっているうちに「電車賃くれコール」が激しくなってきて、「とりあえず外に出よう」と言って場所を変え、「故郷に帰りたいんだったら、上海駅まで一緒に行ってキップを買ってあげますよ」と提案した。
2人は案の定「自分で買うからいい。今200元くれたらそれでいいんだ。同じことだ」と言ってきたが、僕は負けじとダンコ駅での購入を主張。2人は困ったように目配せした後、ジャイ子の方が「分かった」と同意。地下鉄の駅へと向かった。
地下鉄に乗ると、2人の表情は一転して暗い。
「なんか計画狂っちまったな…。早く家帰ってテレビ見たいのになー」という感じ。さっきまでのムードは一変し、会話はほとんどなくなった。
駅に着いてキップ売り場に行くと、ちょうど30分後に出る電車があった。僕は窓口に向かい、お金をドブに捨てる覚悟を決めた。
「3枚ください!」
価格は全部で約200元。日本円で3000円足らずだが、感覚的には5000円以上な感じ。決して少なくはない出費だ。
「なんであなたもついて来るんだ?」と聞かれたが、
「見送るためだ」
などと適当に答えた。2枚キップをあげたところで、バイバイした後で払い戻すに決まっている。2人がこれから夜行列車に乗り込むところまで見届けねば。
改札を抜けて、キップにハサミが入れられた。もう後戻りはできない。
二人の表情は相変わらず暗い。
ホームに着き、電車に乗り込んだ。このままでは僕も夜行列車に乗るハメになるが、どうにか次の駅で降りてタクシーで帰るしかあるまい。こうなったら刺し違えてやる。
と思っていたら、一旦着席していた2人はスっと立ち上がり、ズカズカ歩いて発車前に電車を降り始めた。
「なんで乗らないんですか?」
「あなた男性でしょ。男性と一緒に故郷に帰ったら、誤解される」
うーむ、変な言い訳を考えたもんだ。
「分かった。じゃあ僕は離れたところに座っているから、電車に乗ろう」
「いや、ダメだ。あなたは私たちのことを信じてないでしょう。だからこのキップは受け取れない」
そういって、キップを突き返してきた。
どうやらメシの最中に「それ本当?」と何度も聞いてしまったのがマズかったらしい。「信じてないでしょ」をひたすら連呼された。
「乗ったら信じるけど、乗らないなら信じない」
「とにかく乗らない」
早くしないと、押し問答をしているうちに電車が行ってしまう。
「故郷に帰りたいって、やっぱりウソだったんですか?人を騙してどんな気分です!?」
「いや、ウソじゃない。あなたは私を信用していない。だから受け取れない」
「いや、助けて欲しいって言うから買ってあげたんですよ!」
不毛なやりとりが続き、ふと振り返ると、もう電車は行ってしまっていた。
とっくにシロクロついているけど、相手は意地でも認めようとしない。
まあとにかく、これでキップは紙くずに変わった。
するとジャイ子は腹立ちまぎれに変な叫び声をあげ、キップをホームの床に叩き捨てた。
さあ叫ぶチャンス、あらん限りの怒りを表現せねば…。
「本当に悪い人たちですネッ!」
ととりあえず叫んだが、徒労感しかなかった。
2人は「もういい。助けはいらないからついて来ないで」と言ってツカツカ歩き始めた。僕は「故郷に帰りたいんじゃなかったのか?」と食い下がるも無視。
駅の外へ出ると「あなた先にどっか行ってよ」と言われ、離れるしかなかった。
いっそ尾行して立派な自宅を突き止めてやろうかとも思ったが、向こうもこっちをチラチラ見ていて尾行困難と判断し、やめた。
結局、彼女らは何だったのだろう。
小遣い目当てだったんだろうが、それにしては同じようなヤツらに出くわす機会が多すぎる。ネットでマニュアルでも出回っているのだろうか。彼女らの特徴というのは、
・2人組の女
・田舎から出てきたが職がなく、金を使い果たした
・腹が減っているので何か食べさせてくれ
・(食べさせると)田舎に帰る電車賃をくれ
・出身地は安徽省蚌埠市
・故郷では服屋をやっていた
などなど。
またチャンスがあれば今度こそ夜行列車に乗せさせてギャフンと言わせてやりたいのだが、暇なときには出会わないのに、忙しいときに限って声を掛けられたりして、その後まだケリをつけられていない。
またいつか続報を書きたいものです。
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