ある日、高田馬場で降りて歩くこと10分、病院に着いた。
院内は薄暗く、午前10時なのだが午後8時の雰囲気でカビ臭い。
看護婦はデブと、ババアと、デブなババアで構成された3人組の超攻撃的フォーメーション。無意識に背筋は伸び、テンションは腐る。簡単な質問が羅列されたへろへろの問診票を渡されて全ての「いいえ」を丸で囲みすぐに返す。待つこと30分、乾いた声で名前を呼ばれる「さんげさーん」
やましただ馬鹿野郎。心の中で絶叫する。
山下を、まさか「さんげ」と読む猛者と出逢うとは夢にも露とも思わなんだ。
既成の枠に囚われない音読みスキルの逞しさに惚れ惚れしながら促されるまま入室。
対面に鎮座した院長と思わしき初老の医者から「さん、さんげさんで宜しいのですか?」と改まって聞かれたもんで「いや、やましたっすよ、普通に」と訂正。普通に。
簡単な説明を受けた後、ローション・コーティングされた直径5mmほどの管を、右の鼻の穴から早速挿入。管の先にはビデオキャメラが取り付けられていて、鼻、喉、食道の内側(完全グロテスク,超絶R-指定)映像を備え付けのモニターで院長と自分と、二人でジっと鑑賞する。おえっ、うえっ、ほげっ、3度ほど嗚咽してビデオキャメラは最終目的地の胃に到達した。手元のコントローラーでビデオキャメラを360度回転させながら「おぉ、綺麗な胃だねえ」と、花でも愛でるように医者が呟く。「ほうでふね」と、鼻の穴に管を突っ込まれては上手く喋れないことに僕は気付く。
報酬として1万円貰う。
口ではなく、鼻から挿入する最新型胃カメラの最終試験用モルモットの役割を無事に終え、
帰りに下北に立ち寄りスタンスミス(レザー:ブラック)買って7980yenを支払い古本屋で文庫本3冊買って帰宅すれば、朝、家を出た時と同じの残金280yen。
清々しいねえ。なんつって涙目で午後6時半の夕焼けを眺めた目で、僕は今日も棚の上に並べられた書籍の背表紙を眺めている。嗚呼、これオモロいのになあ、なかなか売れねえなあ、なんつって財布の中身は560yenあの頃の倍。
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