前夫とは正式に離婚していたが、
その後も子ども達の父親、母親であることはまちがいないから、と話し合い、
そのまま2年間くらい同居を続けていた。
そんなある日
私が外出から帰ると、子ども達が家の中で遊んでいる。
私 【あれ?今日はお父さんと遊びにいくんじゃなかったの?】
息子 【お父さんが、めちゃくちゃ眠い、って言って途中で帰ってきたんだよ】
ふーん、と言って、キッチンから夫の部屋を見ると、
うすくドアが開いている。
その隙間から、何かが小刻みに揺れている影?らしきものが見えた。。。
(何だろう・・?)
不思議に思って夫の部屋の前に立ち、中を見ると、
【なにここ?】
その部屋の中は、もやがかかったような、
シルキーな空気感だった。
そして、その部屋の真ん中に
こちらに背を向けてあぐらをかく姿勢で座り、首をがっくりと落とした夫が
全身ガタガタ小刻みに揺れている
【ゲェ!真っ昼間にいったい何やってんの!】
なんだか不謹慎なシーンを見てしまった、と
気持ち悪さで胸がつかえ、うぇっ、となる。
それからしばらくして、
夕食時になり、再び夫を呼びにいくと
やはりこちらに背を向けた姿勢のままあぐら座りをして
今度は大きくゆーっくりと左右に揺れている
さっきから、2時間は経ってるけど・・
【ねぇ、ちょっと、大丈夫?】
声をかけるも、返事はなし
なんだか変な気がして心配になってきた
【ねぇ、ちょっと!!具合悪いの?大丈夫?】
さらに大きな声で聞いてみると。。
後ろ向きのまま
【・・ゎかってる】
という返事。
元夫は、普段私に何か言われるのが一番嫌なことらしく、
ほとんどすべての返事が【わかってる】だった。
聞きなれた言葉が出てきて少しほっとした。
とはいえ、毎日大量に自宅で飲酒していたので、
とうとうアルコールが頭に回ってしまったのだ、と思った。
私 【本当に大丈夫なの?
病院いったほうがいいんじゃない?】
夫 【う、う、ぁかってる】
(ろれつが回ってない・・・?!)
私 【っわかってる、じゃなくて、病院行く?行かない?】
(だいぶ様子おかしいし、体揺れてるよ!)
夫 【うぁかってる。。。わかーーーってる】
背を向けたまま、反抗心でいっぱいのでかい声が返ってきた
私 【わかってる、じゃなくて、行くか、行かないか、だよ。
病院行く?行かない?】
私は語気を強めた。
そして、頼むから病院行ってくれ、と思っていた。
【い、い、いぐぁ、いぐぁ・・・】
何、この会話!人間?!
【行くの?行かないの?】
小さな子どもに聞くように、ゆっくり言った
【い、い、い、いぐぁ、いか、・・・いかーーーってる】
父親の様子がおかしいと集まってた子ども達が
私の後ろで手を叩いて大爆笑している
私は・・・なんだか笑えない、いったい何が起こっているのか。。
その後、
夫は自分の部屋から出てきてソファーに座り、
ずーっと天上や部屋の角を凝視したり、
部屋の電気のスイッチを押したり、
突然マラソンをするかのように、足踏みしたり、
実際に靴を履いて外に出てしまったり・・
アル中になって、頭がおかしくなってしまったんだ・・
いったいどうしたらいいんだろう
話しかけても返事もしない
もう、普通の会話すらできない
あぁ、西原さんの本をまじめに読もう
それよりもそういう施設を調べてみたほうがいいのか・・
自分の身近に突然起こった非常事態をなんとか慌てず、
ポジティブに受け止めようと必死になった
10分後、外から帰ってきた夫は、また自分の部屋にこもり
それっきり、丸一日でてこなかった
翌日の深夜、
夫が部屋から出て、キッチンで水を飲む音がした
恐る恐る声をかけた
【ねぇ、大丈夫?】
【俺、おかしかった?】
【おかしかったよ、めちゃくちゃおかしかったよ!】
私は昨日の出来事をすべて話した。
病院にいくか、行かないか、と聞いてるのに、いかってる、と言ったこと
アル中になって頭がおかしくなったと思ったこと
目線もあわず、ひたすら天上や部屋の隅を見ていたこと
そうしたら、【俺、多分、さっきまで死んでいた】と言う
夫は、体が揺れていたときのことは何も覚えていなかった
そして、天井を見つめていたのは、実は自分が天井にいたとのこと。
実際の自分が天井で、抜け殻が部屋に座っていたという
そして、抜け殻なので、自分の指の感覚がつかめず、ボタンが押せるかスイッチを押したり、
足の感覚があるか、マラソンしてみたり、靴を履いて実際に外に出たりした
下の抜け殻に戻りたかったが、どうしても戻れなかったそうだ
そして、それから丸一日
寝ていたのは、真っ暗な道をずーっと一人とぼとぼ歩き続けていたという
どんなに歩いても真っ暗で、そして、今、ハッと目を開けたら部屋に戻っていたそうだ・・・
これには、びっくりした!
思わず、いつもの辛口ツッコミで、
【このまま死ねばよかったのに!】と言ってゲラゲラ笑った。
でも、笑えてよかった・・
【また、生かされたんだよ、
やっぱり、あなたはまだ、やるべきことがあるんだよ】
そう言って私も安堵した。
後日詳しい人に聞いたら、
肉体から魂が抜けていくとき、
庭に水をまくホースのイメージで、
水の勢いが強いと、ホースがバタバタ動くように、
魂が抜けていく時に
体がガクガク揺れるそうだ
全てが腑に落ちた
シルキーな部屋の空気、
そう、私は本当に幽体離脱の瞬間を見ていたのだ
そして人間の抜け殻と私は会話した。
【いかってる】
この言葉の中に、人間の抜け殻の中にこびりついた
【感情】と言うものの正体を思い出す。
そして、それは、私達が天に召されるときには、
地球においていくものなんだ、ということも・・
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