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                      マサヤがいなくなる・・・。 
                     
                      マサヤと離れ離れになるなんて考えてもいなかった。 
                      4年生の途中なのに・・・。 
                     
                      「何で・・・?」 
                     
                      「お父さんの仕事の都合で、旭川へ引っ越しをすることになったんだって」と母は言った。 
                     
                      旭川という町は、富良野から車で1時間ほど離れた町。 
                     
                      車で1時間・・・。 
                     
                      小学4年生の俺にとっては途方もない距離に思えた。 
                      離れ離れになったら、次、いつ会えるかもわからない。 
                      移動手段が徒歩か自転車では、辿り着くことができない町。 
                      遠い、遠い町。 
                     
                      母との話が終わり、何も考えることができないまま、 
                      おもむろに立ち上がって、ふと窓の外を眺めた。 
                    いつもマサヤと遊んでいた小さな公園は、夕陽でオレンジ色になっていた。 
                      公園で遊んでいる二人の影は、マサヤと弟のコーキだった。 
                    何事もなかったかのように、 
                      転校することが嘘みたいに、 
                      マサヤとコーキは楽しそうに遊んでいた。 
                     
                      マサヤ・・・。 
                     
                      俺は自分の部屋に行き、勉強机から、ゆっくりと椅子を引っ張り出した。 
                      かくれんぼをするかのように机の下に体を入れる。 
                      そして、膝を抱え、うずくまった。 
                     
                      マサヤがいなくなる・・・。 
                     
                      マサヤがいなくなるなんて、嫌だ・・・。 
                     
                      嫌だ・・・。 
                     
                      涙は、次から次に溢れてくる。 
                     
                      何度も、何度も腕で拭った。 
                    
                    * * * 
                    
                    マサヤが引っ越しをする日は、 
                      見送る人達の気持ちを映し出すかのように、 
                      重たい雲が空を覆った。 
                    マサヤの家族が乗る車には近所の人たちが、 
                      「また遊びに来てね」、「元気でね」と次々に声をかけていた。 
                      そんな光景を眺めている俺に、「マサヤくんにお別れを言ってきなさい」と母が言った。 
                    ゆっくりとマサヤが乗る後部座席に近づいた。 
                      マサヤは、いつになく真剣なまなざしで俺を見た。 
                      おそらく俺も。 
                     
                      「手紙、書くね・・・」そう言うのが精一杯だった。 
                     
                      「・・・俺も書くよ」静かな声でマサヤが言った。 
                     
                      後部座席の窓が、ゆっくりと閉まった。 
                      マサヤを乗せた車は、ゆっくりと動き出す。 
                      見送る人達は、車に向かって大きく手を振った。 
                     
                      どす曇りの空から、涙がふりそそぐ。 
                     
                      俺は、車が見えなくなるまで、 
                      ずっと、その場に立ちつくした。 
                    
                     
                      ─── マサヤ・・・。いっぱい手紙書くからね。 
                    
                    ─── マサヤ・・・。また、会おうな。 
                    
                     
                      ─── マサヤ・・・。 
                    
                    
                    
                    ─── 俺達は、一生、友達だ。 
                     
                        
                       
                     
                      パンダちゃん。 
                    
                    名乗る場面もないのにつけた、俺とマサヤのコンビ名。 
                    
                    あれから20数年の月日が流れた。 
                     
                      小学生だった俺達は、 
                      何かするでもなく、 
                      ただ、コンビ名があったら良いなと思ってつけたけれど、 
                      もしかしたら、30代の今、この時のために、 
                      パンダちゃんというコンビ名をつけたのかもしれない。 
                      あることを、ぶちかますために。 
                    
                    これから綴る物語は、 
                      少年から大人になった俺達、パンダちゃんの物語だ。 
                     
                       
                       
                      つづく 
                     
                      
                     
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