生まれて初めてできた友達の名前。
俺とマサヤは北海道富良野に生まれた。
同じ町内の、同じ公営住宅に住んでいた。
歩いてもカップラーメンができあがる頃には家と家を行き来できる、そんな距離に俺達の家はあった。
俺とマサヤは自分達のことを「パンダちゃん」と呼んだ。
名乗る場面もないのにつけたコンビ名。
いとこの兄ちゃんが「ガッチャマン」の替え歌である「パンダちゃん」を歌っているのを聴き、
「パンダちゃんを俺達のコンビ名にしよう」とマサヤに提案したのがきっかけだった。
コンビ名をつけて何かしようというわけでもなく、
パンダちゃんの意味もわからないまま、
ただ、ただ、コンビ名があったら良いなと思ってつけた。
マサヤは「何でパンダちゃんなの?」とも訊かず、
「どうしてコンビ名が必要なの?」とも訊かず、
いや、有無を言わせる隙を与えなかっただけなのか、
俺達のコンビ名は、それ以降、「パンダちゃん」ということになった。
俺達、パンダちゃんは、かっこいい男に憧れた。
当時、俺達にとってのヒーローは、
キン肉マンであり、ジャッキー・チェンだった。
そういえばマサヤの顔は、どことなくジャッキー・チェンに似ていた。
母親似のジャッキー・チェン似。
ただ勘違いをしないで欲しい。
マサヤの母さんは、ジャッキー・チェンには、まったく似ていない。
綺麗な、とても綺麗な、母さんだった。
ジャッキー・チェンの映画をテレビで観ては、
プラスチックのヌンチャクを振り回し、
「何か燃えてきた!」と修行という名のランニングに出かけ、腕立て伏せをし腹筋をした。
俺達は、かっこいいと思えば格好からも入った。
スキー選手のストックが曲がっていると知れば、
なぜストックを曲げているかというよりも、
あのストック、何か、かっこいいねと言って、
自分達の持っているストックを無理矢理、曲げた。
二人とも、ああでもない、こうでもないと言いながら、
真剣な顔でストックを、無理矢理、曲げた。
北海道富良野には大きなスキー場があり、
冬になれば、よくスキーをしに出かけた。
マサヤが家族でスキーに行って骨折をし、
松葉杖をついて学校に来た時はヒーローになった。
「どこで骨折をしたの?」
「第八リフト」
「えっ?第八リフトのところを滑れるの?あんな急斜面。すごぉい」
クラスで交わされるそんな会話を聞きながら、
俺も骨折をしたい。
俺も松葉杖をついてみたい。
と羨ましくて仕方がなかった。
あれ以降、俺は野球の練習中に指を骨折し、
指を脱臼したことはあるけれど、
足を骨折し、松葉杖をついたことはない。
だけど、それで良い。
痛い想いをするのは嫌いだ。
つづく
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