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幕張本郷で家賃3万円くらいの安アパートで、一人暮らしをしていた頃、人にこう言われたことがある。
”そんなに外で飲んでばっかりいて、大丈夫か?”
そう言われるのも無理はない。
僕は週のほとんどを外で食事、いや、飲酒を(笑)していた。
その頃の僕の給料なんて20万いかないくらい。
それで家賃を払い、水道高熱費を払い、残りは全て外で食事、飲酒に使っていた。
理由なんて簡単。
一人だったから。
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恋人も家族もなく、一人だったからこそ、だからこそ、一人で淋しく家で自炊して生活するなんて、僕にはとても耐えられなかった。
何ていうかな、
生活じみてたまるか!!
、というか、一人暮らしで、自分のためだけに米を炊く男なんかに絶対なってたまるか!!という思いが本当に強くあった。
そんな小さな、こじんまりとした生活を、もし送ってしまおうものなら、僕はもう永遠にその小ささのままで終わってしまうんじゃないかという恐怖があった。
小説家に坂口安吾という人がいるんだけど、
その人も”いずこへ”という作品の中で、同じようなことを言っていて、僕は、そうだよ!そうなんだよ!と共感したのを覚えてる。
でも、そんな僕に向かってこういう人もいた。
”MIZKは大人じゃないよね。自立してない。
自立した男と言うのは、自分の飯くらい自分で作るもんだ。”
この人は僕の上司にあたる人だったんだけど、
そんなことを言われて、僕は、いやー、へへへ、勘弁してくださいよ〜
なんてな感じでお茶を濁していたんだけど、
今、思えば、その人の言っていることの正しさが、よくわかる。
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しかし、その頃の僕には無理だった。
けっ!!何言ってやがんだ。
自分で飯を炊く!??
そんなもん、やってられっか、バカヤロー!!!と、
また、夜の街へ足を向ける。
色々な店へ行った。
居酒屋、バー、スナック、ラーメン屋。
とにかく、毎日どこかへ行っていた。
そして、寂しさを紛らわすため、つかのまの酒に酔い、つかのまのコミュニケーションに酔い、
だからと言って、なにかが生まれるわけでなく、
時間がたつと、なけなしの金を店に払い、ふらふらと家に帰り、
次の日は二日酔いの頭を抱え職場に行った。
繰り返しだった。
毎日は、ただ、それの繰り返しだった。
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そんな孤独なアルコールストレンジャーとして、一時期、僕はこの幕張という場所にいた。
そんな僕の前を色んな人たちが通りすぎていった気がする。
男も女も、若いやつも、年とった人も、色々・・・
チャールズブコウスキーの作品じゃないけれど、
皆、結局は淋しい目をして、今は起こらない”何か”を探していたような気がする。
例えば、僕と同じくらいストレンジャーだった、通称、ケン。
全然、つきあいはなかったけど、いつもいつも泣きそうな顔でどこかで泥酔してるのを見かけた。
その絶望的なまでの姿に、僕は正直同情するとともに軽蔑したりもした。
それとか、酔うと誰でもいいから抱いてみたいな感じになるショーコ。
冗談なのか本気なのか、わからない感じで、バーで出会ったゆきずりの男と次の店にゆく、
そのショーコの眼の底に恐ろしいくらいの淋しさが漂っているのをみんな、知っていたんだろうか?
そして、バーのカウンターで、嘘っぱちの儲け話ばかりして、皆に嫌われていたマサオ。
家に帰りたくない、家に帰りたくないと、こぼす、30歳なんだけど、50歳くらいに見えるメガネの勤め人。
自分は会社を経営してると名刺まで刷ってもっているが、スナックのママいわく、ただの警備員のおじさん(笑)
酒が入ると信じられないくらい暴れる、カラオケスナックの常連のじじい。
いつもフェラーリに乗って飲みにくる外車ディーラー。
私、お金持ちとするSEXがだーい好きと恥ずかしげもなく言う、金持ちの愛人の女。
そして、そんな人々をほけーっと見てる僕(笑)
とにもかくにも、
今も目をつぶると脳裏に浮かんでくるそんな人々の風景。
みんな、自炊なんかしていなかったんだろうな(笑)
みんな、きっと。
でも、僕は、、そんな時代を超えて、
いつのまにか、
本当にいつのまにか・・・
今では、3LDKの家に住み、家族の誰よりも米を炊く男になっている(笑)
お米にちょっと日本酒いれると美味しく炊けるんだよね、みたいな小賢しい、こだわりさえ持って(笑)
人間は面白いね。
みんなも、幸せになっていると信じて僕は今日も幕張で生きてます。。
つづく
MIZK
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