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するがゆえ、飛び蹴りくらわす


恋愛、そして結婚と自由。

私の好きな人が私を好きできてくれること、
私の好きな人が私と結婚してくれたこと、

これって真面目に奇跡なんじゃないかなって思う。

そんな私の恋愛と結婚についてお届け!








Vol.3 壁フェチの男




「うわぁあああ」。


デート中、彼はそう言うとおもむろにカメラを取り出し、

隣にいる私の存在など忘れたかのように、

無心になってシャッターを切り始める。

どこにでもある民家をパシャパシャと撮影する彼。

私は突然のことに唖然として立ちつくす。



ひとしきり撮り終えると、彼は満足気にカメラの液晶モニターを覗いた。

何を撮影していたのか尋ねると「壁だよ。カベ」と彼は言い、私に液晶モニターを見せた。

そこには確かに壁が映っていた。よくある民家のただの壁。

彼は無類の“壁フェチ”だった。





その後も彼は気に入った壁を見つけると「ちょっと待って」とだけ言い、
私と一緒にいることなどお構いなしに撮影。

私がふざけてフェードインしようものなら「ジャマ過ぎる!」と本気で邪魔者扱いだ。
撮影中の彼はまるで壁と対話しているようであり、そこはまさに変人の聖域。


出会った頃は、付き合いたての彼女(私)をほったらかしにして
突如として壁を撮影する彼に苛立ち、呆れ、ちょっとキモイとすら思っていた。

冷たい風が吹きすさぶ日も、滅多に降らない雪の日も、
30度を超える炎天下の日も、相も変わらず壁を見つけては撮影する彼。

誰に頼まれたわけでもなく、何になるというわけでもなく、

ただ「壁にくすぐられるんだよね」と笑いながらシャッターを切る壁フェチの彼を、

いつしか愛おしく想い、あっという間に3年という月日が流れた。



 

街を歩けば彼の琴線に触れる壁がある。

「この壁いいねぇ」と彼が言えば、どこがどう良いのか、
今では私にもわかるようになってきた。

壁に沿う排水管、絶妙な位置にあるガスメーター、壁と調和する植物、

経年により色褪せたペンキ、壁と窓のアンバランス――。

美しいとか、おしゃれとか、バランスが良いとか、そんなものではなくて、

ただそこに何かをくすぐる壁がある。


























>>はじめまして。良美です。

ちょっと変な旦那さんをもつフリーライター。

FSL02では、私なりの視点で恋愛や結婚について綴っていけたらと思っています。
どうぞよろしくお願いします。




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