東京に来て、靴の卸屋のバイトをしていた。
その仕事は、練馬区に靴を作る小さな工場があって、そこから荒川区や江戸川区の方へ出来上がった靴を俺が車で運んで行くアルバイトだった。
毎日、自分の部屋から仕事先に行くのにとても、交通の便が悪く、徒歩で30分掛けて通勤していた。
毎日、何百足という靴を「TOYOTAクイックデリバリーバン」の積み込み、午前中に積み込み午後5時位に会社へと戻る。
ある時には、荒川の土手の近くに靴の直しをやっている、おじいさんの所へ行く事がしばしばあった。
その、おじいさんの所へ行くのがとても楽しみだった。
おじいさんは、いつもJAZZをかけながら、靴を縫っていた。
たまに、「まだ、時間あるかい?」と聞いてきては、荒川の土手を犬を連れて、散歩しに行った。
JAZZ、BLUESの話をしながら。
たわいもない話、「うちのばあさんは・・・」とか「お前の所の社長は・・・」とか・・・
土手に寝そべってみたり、日差しがとても暖かくて。
そうこうしてる内に、時間が1時間程過ぎてしまい、おじいさんが「引き止めちゃって、ごめんな」と言い、俺に鮭のおにぎりをくれた。
そこから、また何件か回り、帰路に着いたのが6:00を回っていた。
周りは、薄暗くなり、街灯が灯りだして来た。
俺が、このバイトを選んだのは、車の中では、自分の好きな音楽が聴けるから。
それが、最大限の理由だった。
その時、車の中で、ラジオをかけていた。
流れてきたのは、仲井戸麗市のセカンドアルバム「絵」の中の1曲目「ホームタウン」
♪ジェファーソンエアプレーンに飛び乗って
緑の広場に着陸できたら
風と月のカフェでお茶でも飲もう
そこが俺のホームタウン
そこが俺のホームタウン
街灯りに車を走らせて、会社へ着いたのは、8:00を回っていた。
社長には、怒鳴られたが、なんとも思わなかった。
ただ、この会社が、ホームタウンでは無かった。
おじいさんと居る時間が、俺のホームタウンだった。
2005-7-6
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