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さらばガリ勉の日々よ 第4回
〜酒池肉林の戯れ〜 |
「おはよーございます!」
無理やり、体育会系気取りで叫んだ撮影の朝。
ボクの左手には女性週刊誌が数冊入ったビニール袋、
右手には、スナック菓子や烏龍茶の入った袋が握られている。
いた仕方ない。
アダルトビデオ制作も、目を細めて見れば、マスコミ業界。
求人誌では、クリエイティブに属する世界。
このギョーカイじゃあ、何といっても体育会系。
100年たっても体育会系。
日本以外、全部沈没したって、上の者へは絶対服従なのだ。
駅近くで待ち合わせた女優、男優、スタッフ一同、
そしてAD兼男優のボクは、二台の車に分かれて乗車。
車に乗るやいなや、助手席に乗っていた男優が
カメラを回し始める。
後部座席で、エロ雑誌を読んでいる女優のパンチラ
撮影。んでもって、そのままインタビュー。
男優「今日は、バーベキュー&キャンプですが、どうですか?」
女優「うーん・・・そうですねえ・・・」
男優「お肉は好き?」
女優「まあまあ」
こんな感じの、ギコチナイトークが繰り広げられる。
モー娘の何とかを横から殴ったような、ふてぶてしい
顔の女優A子は終始ご機嫌斜め。朝早いせいなのか、
それとも、本日は彼女のマンスリーイベントなのか。
「ダメダメ!」
裏街道の裏の裏、地獄の10丁目まで歩いてきたと噂される
チンピラ監督がカメラを取り上げ、ボクに渡してきた。
「このマッチョ、使えねえんで、お願いしますね。」
AV監督とはいえ、制作会社の身。
ボクはADとはいえ、一応メーカーに所属する身なので、
立場的には上なのだ。
A子に真摯に話しかけたせいか、何となくA子の機嫌が
良くなってきた。それに、実はA子はボクが面接をした
女優だ。会うのは二回目のせいか、A子も自然と打ち解ける。
適当なところでカメラのSTOP
ボタンを押し、辺りを見回すと一面緑の木々。
東京郊外。この辺りなんて、大学時代にキャンプへ行った
以来。まさか、こんな形で来ることになるなんて・・・
***
現場には、二階建てバンガローが数棟並び、
ちょっとしたスポーツのできる広場もある。
人は、ボクら以外に管理人のおじいさんがいるのみ。
貸切なのだろうか。
一見すれば、仲の良い社会人サークル集団(男7:女3)
の我々。今晩繰り広げられるエロ攻防戦なんて、
このおじいさん、想像もつかないだろうなあ。
バンガローでカメラや、ライトのセッティングを
行う。その間、パッケージ用のスチール写真が
着々と撮られていく。
傍らで、A子が裸でポーズを決めている間、
ボクはバーベキュー台の火起こしに忙しい。
ムスコはいたって、安静閑静。
この数ヶ月の間で、ボクも随分変わったもんだ。
それを、プロ意識と呼ぶのはちと恥ずかしいのだが。
***
カルビをツマミに、タンタカタンとビールで乾杯。
A子とスタイリスト、メイクの美女三人と
交わす酒。仕事とはいえ、悪くない。
今回の撮影は酒を飲んで、乱交するというもの。
酔っ払ってエロくなる女を撮るのが狙い。
面接の時からA子は酒が好きだと言っていた。
「元カレがヤフオク詐欺で捕まった。その前のカレは
どっかの海岸で水死体で引き揚げられた」
そんな、ブラックな話を平気でするA子。
酔っ払うと、暴れだすのか、淫らになるのか、
それとも、実際ドMなのか。
「A子の♪一気が見たーい♪」
大学時代に覚えたコールでA子のグラスに
タンタカタンを注ぐ。
その瞬間、A子が信じられない言葉を発す。
「ワタシ、お酒全然飲めないから」
ウソだろ?面接じゃあ、酔うとエロくなるって、言ってた
じゃないか!!面接したのは、ボクだけど、このビデオの
企画者で彼女を採用したのは、プロデューサーのMさん。
チラリとMさんの様子をうかがうと曇った表情。
チンピラ監督も、不機嫌極まりない。
ヤバい、この現場、どうなっちゃうんだー??
***
荷物を取りに車へ行き、またバンガローへ戻ると、
女が喘いでいた。スタイリストのB子が、男優二人と
絡んでいる。
今朝、挨拶をした時、どこかで見た顔だなあと
思ってたら、やっぱりこのB子、女優だったのか。
「エロスタイリスト乱入!?」
みたいな、最近のAVには良くありがちな
シュチュエーション。
それにしても、生で見る他人のセックスはスゴイ。
これまで、友達んちで男女の営みを偶然目にしたり、
深夜の公園で青カンカップルに遭遇することは
あっても、あくまで暗闇。
ライトアップされた肢体は想像以上に艶かしい。
ボーっと見とれているとMさんが、ささやいてきた。
「さっきのA子、奥の部屋でマッチョと絡んでるよ。
オマエのこと気に入ってるみたいだし、行ってやれ」
案内された奥の小部屋に入ると、A子とマッチョがヤッテいた。
そして、その横を泥酔した監督がフラフラ歩いている。
「てめえが、面接したのか!この女!!」
監督がいきなり、ボクにコブラツイストを仕掛けてきた。
意味がわからない。
だが、宙を仰ぎ、時折わざとらしく、「アハン」
などとこぼすA子を見て現場の険悪なムードを
察知した。
「あのマッチョ、超キモい。カントクも怖いし最悪…」
バーべキュー前、A子はボソッとボクにこう漏らしていた
のだ。
その憂さ晴らしなのだろうか。
監督の二の腕に挟まれ、苦しんでいるボクの
顔に、A子はツバを吹きかけてきた。
「○▲※×XXX!!!」
酔っ払っているのか、ナチュラルハイなのか、
変な薬でもやっているのか、A子が奇声を発する。
監督の腕からようやく開放されたボクは、A子の
後ろにチョコリと座り、胸を触り、手を握る。
とりあえず、どうしていいのかわからない。
昔読んだ、加藤鷹先生の著書を参考に、まずは
優しく手を握ってみよう。
四隅に光る固定カメラと照明。
男優の体に吹き出る汗の山。
荒々しい腰使い、息遣い。
「どうすりゃいいのさ。どうすりゃいいのさ。」
静かに鎮座したボクのムスコを、A子はつまみあげ、
チンピラ監督のソレとくっつけ「ドッキング!」
などと遊んでいる。片手にハンディカムを持った
マッチョが、美味そうにA子の恥部を舌で掻き回している。
動物の世界。
アルコールと不思議な高揚感で頭が朦朧としたボクは、
ソッと辺りを見回す。
いつの間にかMさんや、メイクさんも近くで見ている。
気持ちいいとか、そういうもんではない。
監督が挿入。ボクのひざの上でA子は喘ぎ、
「男優さぁん、ヴィトン買って〜!」
とわめいている。
何だこの世界は。
何だこの世界は。
しばらして、監督、男優の白い飛沫がボクの二の腕にも
降りかかっていることに気づいた。
何とも思わなかった。
***
その後、さらに赤ワインボトルを一気したボク。
頭もカラダも完全に壊れていた。
偽スタイリストのB子と絡んでる時、
突如、彼女がゲロをした。
相当酔っ払っているらしい。
カルビやネギの木っ端で塗れた小さな口に、
そのままボクは、一物を挿入する。
口の中に入れる直前、一瞬酔いが醒めた。
「オレ、何やってんだろ。」
汚臭が漂うその空間。
これでボクのプライドもぶっ壊れるのかな?
自分の中で何かが変わるのかな?
そんな考えをめぐらせる。
ゲロ塗れの口。
ここに挿入すれば、宗教家みたいに×年○月△日の、一元の光が見えて、
悟りを得るのだろうか?
だが実際、そこにブッ込んでみても、
何も変わらなかった。
ぬめった舌が、ただ、気持ち良いだけだった。
ボクが描いていた自分探しとプライド破壊。
所詮、こんなモンだったのか。
ゲロじゃなくて、クソと触れ合えばいいというのか。
いや、惨めになるだけできっと得るものはないだろう。
B子は、いたずらっ子のようにボクに小便を
かけてくる。そして、お返しとばかりにボクも彼女の
顔面に放尿する。
動物の世界。
イヤ、ションベン虫の世界だ。
そのまま手をつなぎ、B子と風呂に入る。
カメラはもう、とっくに回っていない。
二人だけの風呂場セックス。
執拗にボクの一物を口から離さない彼女。
とろける様な彼女の表情がとてつもなく
可愛いらしく、一瞬魔が差した。
「電話番号教えてよ」
すると、彼女は表情も変えず
「彼氏がいるので教えられません」
と言った。
その間も、ボクのムスコは離さない。
そういえば、彼女は撮影の合間、
スタッフに彼氏との写真を嬉しそうに
見せていた。
浮気のボーダー。
手を握ってから?
キスしてから?
そんな、ちっぽけな問題じゃぁない。
ココロと体は別。
こういう人のためにある言葉なのだろうか。
***
その後、ボクはチンピラ監督に小一時間ボコボコにされる。
女優の二人が寝て、回りにはスタッフのみ。
ワインボトルや、いかの燻製が転がる中、
泥酔した監督の罵声が飛ぶ。
「あの、A子!!全然酒飲まねーじゃねえかぁ!
生意気だし!!企画意図が違うんだよ!!」
Mさんが、時折止めに入るも、生贄のボクは
終始凹られ続ける。
「抵抗すれば、会社クビになるんだろうな」
面倒くさいことにはなりたくない。
既に面倒くさい環境の中、ボクは
「すいません」
を連呼する。
口から血がこぼれ、「すいません」
すらまともに叫べなかったが、
とりあえず終始何かを叫んでいた。
このまま、死んだふりをしてしまったら、
みんなにナメられてしまうだろう。
「ヤツは、死んだふりする、嘘つき」
ってね。
右の頬をぶたれたら、自然に左の頬を差し出していた。
***
生贄ショーが終わったあと、
テラスにタバコを吸いに行った。
メイクさんが、一人静かにタバコをふかしている。
火をつけようとしたとき、ライターが
手からこぼれ落ちた。
そのまま、茂みに隠れるライター。
立ち上がり、探そうとしたが、アザだらけの
体がズキンと痛む。
「ウ、ウウ・・・」
嗚咽が漏れる。
こらえていたものが、一気に噴出し泣きじゃくる。
そのまま、メイクさんの方を見る。
フーッと豪快に煙を吐き出し、
「キミ、ウザいよ。」
そう言って、どこかへ消えていく彼女。
そん時のボクのツラ。
捨て犬のような可愛いさは無く、
ダメ男ほど母性本能をくすぐる術も無い。
甘えん坊のションベン虫。
踏み潰したら黄色い汁。
その程度のツラさ。
「ウォーー!!」
空に浮かぶ下弦の月。
青い空なら「バカ野郎!!」って叫びたくもなるが、
うすモヤかかる濃紺空には、何と叫べばよいのか。
だが、その時のボク。
ツラクも悲しくもあったけど、
一つだけ誓っていたことがあった。
「絶対会社は辞めないぞ!」
そうさ、ボクの夢はAV監督。
女優をはべらすヒットメーカー。
いつか絶対BIGになってやる!
下腹部に残るB子の唾液。
手でなじませながら、そう思った。
・・・つづく
by 雑魚ゾンビ
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