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2008-8-25
タフストーリー3
落ちこぼれS君の奇跡
格差社会、格差社会と騒がれているけど、そういうのは昔からあった気がする。
僕が生まれ育った街などは、その典型で、一軒家を買える富裕層と、家賃一万円すらも払えないような生活保護世帯とが狭い街で見事に混在していた。
そんな街で、みんな子供の頃は、そんなこと気づくはずもなく楽しくやれるんだけど、
いつのまにか、少しづつ少しづつ子供たちの間にも溝が出来てゆく。
中学を出るくらいの頃になると、もうその差ははっきりと出て、私立の偏差値の高い高校に進むものと、
進学はせずに、そのまま暴走族などになるものとに見事にわかれていった。
そんな街に僕と同じ団地に住むS君がいた。
S君は僕より2歳くらい年下で、お父さんはタクシードライバー。
とても裕福とはいえない家庭環境のなか、S君はいつも暗く卑屈な目をしていた。 |
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友達もおらず、学校へ行くのが凄く嫌いみたいで、よく先生や、同級生が呼びに来ていた。
でも、いつしかその先生も来なくなり、S君は今でいう、ひきこもりになっていった。
時折、家で暴れているという噂を聞いたりもした。
でも僕も自分のことでせいいっぱいで、いつしか彼のことを忘れ月日は過ぎていった。
心のどこかでは彼はもうダメかも知れないと勝手に思っていた。
そんなS君だったけど人生はわからない。
しばらく見ないうちに彼に何があったのだろう。
ある日地元へ戻ってみると、
彼はいつしか、県内で最高レベルの大学へ進学して頑張っているという話を聞いた。
そこは生半可な努力では決して入れない学校。
経済力もない彼にはそうとう高いハードルだったはずだ。
だけど、彼は見事に入った。
アルバイトしながら受験したのか、それとも奨学金制度にパスしたのか。
とにかくS君のその話を聞いて僕は驚くとともに、とても痛快に思った。
まわりからは嫉妬まじりの、”なんであんな落ちこぼれが…”という声が多数、聞こえたけれど、僕はそんなことを言う人々を全て軽蔑した。
団地生まれで貧乏でひきこもりの彼だったからこそ、暗い部屋にい続けたからこそ、
いつの日か彼は心の底から、太陽のあたる場所を求めたのだろう。
そしてそんな暗い思いがあったからこそ、尋常じゃない努力が出来たのだろう。
あくまで想像だけれども僕には不思議とそう思えた。
彼のその後の人生は知らないけれどきっと今でもタフに生きているんじゃないかと思う。
人生はわからないと言えば、同じ街に子供の頃からエリートとされていた人々もいた。
大きな家に住み、いつもいい服を着ていた。ご両親の職業も立派なものだった。
誰の目にも将来が約束されているように見えた。
もちろん僕にも。
だけど今驚くべきことが起こっている。彼らの多くは大人になってから心を病んだ。
どうやら、この過酷な現実社会に耐えられなかったらしい。
そしてとても幸せとは言えない状況のなか今を生きている。
人生はわからない。間違いなく誰にもわからない。
裕福に生まれることが決して幸せにつながるとは言えない。
たとえどこで生まれようと、そんなことを蹴り飛ばせるタフな力が人間にはきっとある。
S君のことを思い出すたびに、いつも、そんな勇気をもらえる。
by フリスタ編集 MIZK
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