11月某日 「 保育器 2 」
不安な気持ちをかかえながら 病院へ行ってみた。 そしてまずは彼女のもとへと向かった。 会った時に言う言葉は決めていた。 こうだ。 「羊水を飲んだって？ 俺に似てもう呑み助かー。 でも吐けば直るだろう。二日酔いの俺と同じで。」 そして笑う。 そんなことを頭で予行演習しながら、 彼女が笑ってくれるといいなと思った。 会ってみると彼女は少ししょげているように見えた。 話を聞いてみた。 なんでも他の子より元気がなかったので、 羊水を飲んだことを疑われたらしい。 そして案の定その通りだったので、 一応念のため保育器に入れて点滴をしながら、 体内に入った毒を外に出しましょうという事に なったらしい。 羊水を飲んだという事象に関しては、 そんなに珍しいことではないと調べてあったので 彼女の報告の中にあった ”一応念のため” というフレーズを聞くと少しは安心した。 子供には会えないのかと思っていたが、 看護婦さんに言ったら見せてくれた。 新生児室の隣に併設している保育器のあるところに、子供はいた。 透明なプラスチックで出来た 温度と湿度が胎内と同じであるよう設定された 保育器の中にいた。 眠っていた。 手の甲には点滴の針が刺されていた。 手のサイズと点滴の針のサイズがアンバランスで やはり痛々しかった。 痛く感じていないことを祈った。 子供の顔をじっと見つめてみた。 眠っていた。 確かに少し元気がないような気がした。 保育器の前には分厚いガラスがあり、 僕はその前でガラスにへばりつきながら 子供の顔を見る。 こんなに可愛い顔をしているのに 一体どこが悪いのだろう？ 自然にそう思った。 そして 大丈夫だからな。 大丈夫だからな。 とガラス越しにメッセージを伝えることしかできなかった。 羊水を飲んだ場合、軽ければ2，3日の点滴ですむが ひどい場合は肺に菌が入り手術しなければならなくなる。 とそこまでは調べていた。 そのケースは少ないらしいが、それでも心配した。 心配で僕も保育器に入りたいくらいだった。 でもあくまで彼女の前ではこう言いはなった。 「うちの子供はＶＩＰ待遇だなー。 他の子はさっさと普通のベッドに移されてるのに うちだけ、個室で最高級品のベッドだ。 しかも栄養剤つきだ。 この子はラッキーなのさ。。。」 彼女は少しだけ笑った。 >羊水を飲んで弱っている我が子。確かに顔色が悪かった。 …つづく
羊水を飲む ･･･ 出産時に赤ちゃんが羊水を飲むのはかなり多いケースらしい。 羊水というのは赤ちゃんの排泄物がたんまり入っているため、相当毒性が高い、 出産が途中で難航した場合によく見られる。これを防ぐためにはお母さんがしっかりと出産呼吸法をマスターしてスムーズに子供を産むしかない。
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