20才過ぎて、ますます飯は食えなくなった。 仕事を見つけてはやめ、見つけてはやめ・・・ 貧乏は激化していった。 そんな時、同じ貧乏仲間から声がかかった。 「おい、○○(僕の名前)、いいバイト見つけたんだよ!」 「どんな?」 「これだよ、これ!」 その貧乏仲間「H」が差し出す東スポ。 ・・・また、東スポ・・・ 嫌な予感を感じながらも、無知な僕はHの興奮した言葉に耳を傾けた。 Hが東スポで見つけてきたのは、 Hによるとホストの仕事だった。 見ると時給が3000円くらいとべらぼーに高い。 正直、その金額は魅力だった。 そしてHはもう、面接の約束をとりつけていると言う。 僕のぶんも。 東スポのうさんくささにアンテナをびんびんたてながらも その魅力にはあらがえず、 僕は同行することを承諾した。 その時の求人広告は確かこんなテイストだった。 目的地は新宿。 そして2丁目。 今となっては「あー2丁目ね」と余裕の顔で言えるが その頃はいまいちよく知らなかった。 新宿につくとHはそのお店に電話した。 なんでも電話をすると迎えにきてくれるらしい。 そしてその通り、約5分後には迎えがきた。 黒っぽいかっこをした垢抜けた兄ちゃん。 Hは「さすがにホストはかっこいいなー」 などど脳天気に言っていた。 2丁目のとある雑居ビルに案内された。 エレベーターに乗り上へあがる。 そして目的の店に着いた。 なんとも妖しい店だった。 広さは5坪くらい。 店の半分くらいは、バーカウンター。 そのバーカウンターの中に、僕と同い年くらいの男がいっぱいいる。 胸には名札。 ショートネームの名前。 ひかる とか りょう とか嘘っぽいショートネーム。 バーカウンターにはお客が一人いた。 小汚いおっさん。 その横にはきれいな顔した従業員。 名前、しんじ。 おっさんに手を握られながら、水割りをつくる・・・ この時点で僕は ああ・・・ 来てしまった・・・ やってしまった・・・ とかなり、後悔していた。 そして無事帰れるか、恐怖していた。 でも横のHは気づいていないみたいだった。 僕は、ひじでHに合図をした。 おい、やばいぞって。 でも、Hは全然気づかなかった。 それどころか、面接がんばるぞ!っていう顔をしていた。 僕はそのバカさ加減に怒りを覚えた。 面接が始まった。 面接したのは店長。 なぜか顔面が傷だらけで包帯だらけの店長。 そして当然だが、おかま言葉。 そしてお店のシステムの説明が始まった。 システムは単純にいえば男のためのホスト。 そして言葉は濁していたが、体を使うホストであることを遠まわしに言っていた。 なんでも、それで月に60万円くらい稼ぐことが可能らしい。 僕はそのシステムの内容を全て聞きたくなかった。 聞いたら絶対に抜けれなくなると思った。 だから、急に体調が悪くなったふりをした。 もの凄くしらじらしかったと思うけど、 必死に咳きがとまらないふりをした。 そして帰らせてもらうことにした。 その作戦は以外とうまくいった。 そして、一緒にHも連れ帰ろうとした。 でも、そこでHのバカさ加減がピークを迎えた。 まだ状況を把握していないHは、あろうことか残ると言い出した。 僕は必死に帰ろうって! やばいって! と目でサインを送ったが、Hにはまったく届かなかった。 いやーせっかく面接までしてもらって悪いから、などと わけのわからないことを言ってHは残った。 僕は外に出た。 Hのことは心配だったけど、それよりもそのバカさ加減に怒りがこみ上げてきて、さっさと見捨てて家に帰った。 逃げるように帰る途中、その街、新宿2丁目にいる男すべてがホモに見えもの凄く怖く感じた。 次の日、Hから電話がかかってきた。 「○○〜(僕の名前)、犯されそうになったよ〜 怖かったよ〜」 頭の悪い子供のような、そのセリフに僕は笑った。 なんでもあの後、Hは店長に 「一万円あげるから、チンコなめさせて」 と迫られ逃げ出したらしい。 笑った。