24才の頃、
酒が好きだから酒屋で働くことにした。
少しは酒のことも知っていたし、なによりも
酒のそばで働けば楽しいことがあるような気がした。
大間違いだった。
![](line-kake_03.gif)
就職したのは千葉県は市川市にある酒屋。
そこの営業職に応募した。
求人広告誌B−ingにあった
![](images-kakesoba/bing.gif)
「お酒のエキスパートになりませんか?」
というコピーに胸躍らせて面接に向かった。
そして採用された。
営業職!ではなくて、倉庫管理のような仕事で・・・
僕は社長に聞いた。
いつかは営業にまわしてもらえるんですよね!?
社長はあいまいな顔で返事をしていた。
![](line-kake_03.gif)
社会に出始めの頃は営業職っていいなと思っていた。
新しい人に出会えるなんて素敵だし、なによりスーツって
かっこういいなと思っていた。
今はまったくそんな事はないんだけど、
ちょっと気取ったカラーシャツに、センスのいいネクタイ
こんな姿で働きたいなという憧れがあった。
その第一歩をこの酒屋でふみ出せる!
そんな思いは出勤してすぐに渡されつけるよう命じられた
酒屋のロゴ入りエプロンが打ち砕いた。
![](line-kake_03.gif)
仕事は殺人的につまらなかった。
酒瓶のつまった倉庫に朝の8時から夜の9時くらいまでいる。
そして在庫管理や、出庫管理をする。
飲んだこともないような高い有名な酒が倉庫には
たくさん並んでいたが、
もちろん飲むことは出来なかった。
教えられていた給料では
買うことも出来そうになかった。
![](line-kake_03.gif)
職場には配送のドライバーや同じ倉庫管理の先輩がいた。
みんな貧乏だった。
そんな貧乏な先輩がささやかながら、歓迎会という
ことで居酒屋に連れていってくれた。
なんでも聞いてくれというので、
給料はいくらもらっているのか?と素直に聞いた。
答えにびっくりした。
僕の給料と変わらなかった。
何年も先輩なのに変わらなかった。
15万円いってなかった。
そんな先輩たちがその晩はおごってくれた。
皆が取り出した財布がすごく安っぽかった。
![](line-kake_03.gif)
仕事がまったく面白くないから
仕事が終わると家で安酒ばかり飲んだ。
そして、愚痴ばかり言っていた。
時に飲みすぎると罵詈雑言をはいたりもした。
暗い部屋の中で。
一人で。
そんな日々が続いた。
ある日仕事の帰りに近くのレンタルビデオ屋によった。
そこには僕と同じくらいの店員がいた。
いわゆるフリーターの走り。
楽しそうにうわついた会話をしている。
男の店員が女の店員のことを仕事をしながらくどいてる。
女のほうもまんざらでもなさそう。
正直うらやましかった。
なんでそんなに上手く生きられるのかと、
心の底からうらやましく思った。
でも、僕はそんな自分にこう言い聞かせていた。
アリとキリギリス
きっと僕はアリで彼らはキリギリスなんだ・・・
そう言い聞かせた。
きっと将来的には酒屋の倉庫でくすぶっている僕の
ほうがいい人生になるんだ。
頑張って耐えてゆけば報われるんだ。
きっとそうなんだ・・・
その日も深酒した。
そして泣いた。
たまに嘔吐物に血が混ざるようになった。
![](line-kake_03.gif)
何日か過ぎた。
何週間か過ぎた。
仕事はやめた。
我慢したって何にもならない。
自分に嘘をつくと体が壊れる。
そしてまわりの人を不幸せにする。
僕はそのことをこの酒屋で学んだ。
自分としては間違っていない考えだと今も信じている。
その証拠に僕は
今、日々を楽しく生きている。
|