24才の頃、
酒が好きだから酒屋で働くことにした。
少しは酒のことも知っていたし、なによりも
酒のそばで働けば楽しいことがあるような気がした。
大間違いだった。
就職したのは千葉県は市川市にある酒屋。
そこの営業職に応募した。
求人広告誌B−ingにあった
「お酒のエキスパートになりませんか?」
というコピーに胸躍らせて面接に向かった。
そして採用された。
営業職!ではなくて、倉庫管理のような仕事で・・・
僕は社長に聞いた。
いつかは営業にまわしてもらえるんですよね!?
社長はあいまいな顔で返事をしていた。
社会に出始めの頃は営業職っていいなと思っていた。
新しい人に出会えるなんて素敵だし、なによりスーツって
かっこういいなと思っていた。
今はまったくそんな事はないんだけど、
ちょっと気取ったカラーシャツに、センスのいいネクタイ
こんな姿で働きたいなという憧れがあった。
その第一歩をこの酒屋でふみ出せる!
そんな思いは出勤してすぐに渡されつけるよう命じられた
酒屋のロゴ入りエプロンが打ち砕いた。
仕事は殺人的につまらなかった。
酒瓶のつまった倉庫に朝の8時から夜の9時くらいまでいる。
そして在庫管理や、出庫管理をする。
飲んだこともないような高い有名な酒が倉庫には
たくさん並んでいたが、
もちろん飲むことは出来なかった。
教えられていた給料では
買うことも出来そうになかった。
職場には配送のドライバーや同じ倉庫管理の先輩がいた。
みんな貧乏だった。
そんな貧乏な先輩がささやかながら、歓迎会という
ことで居酒屋に連れていってくれた。
なんでも聞いてくれというので、
給料はいくらもらっているのか?と素直に聞いた。
答えにびっくりした。
僕の給料と変わらなかった。
何年も先輩なのに変わらなかった。
15万円いってなかった。
そんな先輩たちがその晩はおごってくれた。
皆が取り出した財布がすごく安っぽかった。
仕事がまったく面白くないから
仕事が終わると家で安酒ばかり飲んだ。
そして、愚痴ばかり言っていた。
時に飲みすぎると罵詈雑言をはいたりもした。
暗い部屋の中で。
一人で。
そんな日々が続いた。
ある日仕事の帰りに近くのレンタルビデオ屋によった。
そこには僕と同じくらいの店員がいた。
いわゆるフリーターの走り。
楽しそうにうわついた会話をしている。
男の店員が女の店員のことを仕事をしながらくどいてる。
女のほうもまんざらでもなさそう。
正直うらやましかった。
なんでそんなに上手く生きられるのかと、
心の底からうらやましく思った。
でも、僕はそんな自分にこう言い聞かせていた。
アリとキリギリス
きっと僕はアリで彼らはキリギリスなんだ・・・
そう言い聞かせた。
きっと将来的には酒屋の倉庫でくすぶっている僕の
ほうがいい人生になるんだ。
頑張って耐えてゆけば報われるんだ。
きっとそうなんだ・・・
その日も深酒した。
そして泣いた。
たまに嘔吐物に血が混ざるようになった。
何日か過ぎた。
何週間か過ぎた。
仕事はやめた。
我慢したって何にもならない。
自分に嘘をつくと体が壊れる。
そしてまわりの人を不幸せにする。
僕はそのことをこの酒屋で学んだ。
自分としては間違っていない考えだと今も信じている。
その証拠に僕は
今、日々を楽しく生きている。
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