新たな仕事を求めて 必死に再生を祈る26才の頃であったが、 この時期は本や言葉に救われる夜が多かった。 仕事がないものだから、なにせ暇である。 でも金はない。 季節は夏。 熱帯夜。 クーラーの無い部屋。 湿気。 そして無職。 人と話す機会も少ない。 嫌な予感のする孤独の連続。 そんな時、僕はよく本に救われていた。 言葉に救われていた。 その中でまず一番僕を支えた言葉は 井伏鱒二のこの名セリフ 「花に嵐のたとえもあるさ、さよならだけが人生だ。」 この言葉を知ったのは寺山修司の本からだったが、 本当にこの言葉には救われた。 著作の中で寺山修司自身もこの言葉によって 幾度も青春のクライシスを乗り越えることが出来たと 言っていたが、まさに僕もその通りだった。 この時期の僕は、何もかもうまくいかず、 どうしてこんなに不運なんだと腐りかけていた。 その時、この言葉を知ってどのくらい救われたか。 綺麗に咲いている花でも、突然の嵐でその美しさ をもぎとられることだってある。 それも予期せずに唐突に。 でも、その、はかなさこそが人生の真実だ。 黙って受け入れろ。 そういう徹底的にニヒルなメッセージが、 ダメになりそうな僕のことを支えてくれた。 他にも僕を救ってくれた言葉や本がたくさんあった。 番外編としてここで一部を列挙しておきます。 何かひっかかるものを感じたら、 僕と同じかけそばDAYSを生きる人たちは、 読んでみるといいかもしれません。 一晩、サバイブするくらいの力はくれる可能性があります。 明日生きるのに大事なことは、今死なないことです。 今生き残れば、自然に明日はきます。 人生はただそれだけのことです。 <伊集院静 - 水のうつわ -> 「人生はなるようにしかなりません。どんな時もあらがったってしかたないものです。水は上から下にしか流れませんから・・・」 精神の放浪を繰り返した伊集院静が母によく言われたという口癖。 いつまでも心に残る言葉です。 <坂口安吾 - 白痴-> 「わたしはその頃、耳を澄ますようにして生きていた・・・。」 冒頭のこの言葉にいきなりやられます。 給料という概念に人生を拘束されたくないから、 もらった金は一日で使い切り、 残りの29日は水を飲んでくらす。 そんな無頼派の生き方になんども勇気をもらいました。 坂口安吾の著作には苦しかった青年期のものが 多いので救われること夜がたくさんありました。 <畑 正憲 -ムツゴロウの放浪記-> ムツゴロウさんというと動物王国のイメージしかない人が多いかと思います。 しかしその若い頃のエピソードを読むとびっくりするくらい苦労されてます。 東大出身というプライドが邪魔をして、職につけず、ドヤ街で暮らし、果ては自殺までしようと東北に行き、死の一歩手前で復活しています。 その一部始終がこの本には書かれており、食い入るように読みました。 <太宰治 -二十世紀旗手-> この本は太宰治が一番精神的にダメな時にかかれたものだと思います。 あまりに過酷な独白が続くので正直恐ろしい本なのですが、少なくとも自分の状況はたいしたことではないな、と認識させてくれるので逆に救われました。 麻薬中毒になり、アルコール中毒になり、自殺未遂を繰り返し、のたうちまわりながら生きた太宰治。 僕は太宰治を反面教師として苦難を乗り越えたところがあります。 <三代目魚武 濱田成夫 -東京住所不定-> ある人の文章に、気分が滅入ったら東海林さだおの 「丸かじりシリーズ」を読むといいというのがありました。 それに近いですが、この魚武の本も非常に気分をやわらげます。 自由を目指し、何も恐れずに実行する。 かっこいい男です。 魚武は。 <ジョージ秋山 -浮浪雲-> 最後になりますが、浮浪雲です。 僕はこの漫画が大好きで、いくど救われたかわかりません。 はっきり言って人生に必要なものは、 この浮浪雲に全て含まれているのではないかとさえ思っています。 人生を苦しい、生きづらいと思っている人は、 一度だまされたと思って読んでみることをお勧めします。 「お姉ちゃん、あちきと遊ばない?」 僕も早くこのセリフを言える男になりたいものです。 以上、一部ではありますが、 26の頃の僕を救った本、言葉でした。 おそまつでした。