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Vol.2 それからサチコ



 

サチコという名前の女に惚れた男がいた。

名を相川という。

出会いはバイト先のチェーン居酒屋。

学生を辞め、その日暮らしの皿洗いのバイトをする相川と、

いつもサラリーマンでいっぱいの客席ホールで元気に客の注文をとってくるサチコ。

サチコは、普段、無口で、

生きるのがとても上手とは言えない無愛想な相川にも、

相川君は何か心配だ、何か心配だと、よく優しい笑顔を見せた。

相川も、サチコに心配されて、嫌な気分ではなかった。




ある日、店のバイト仲間同士数人で飲む機会があった。

飲み会にいって盛り上がる、カラオケにいって盛り上がる。

そういったノリにどうにもついていけない相川としては本当は行きたくなかった。

でも、サチコが行くなら。




飲み会は予想どおり、最悪だった。

よくもまあ、そんな、どうでもいい話題で盛り上がれるぜ。



 





2次会のカラオケボックスで、偶然にもサチコが隣になり、

サチコは少し酔った顔で唐突に、こう言う。

”相川君が、いつか本当に笑える日が来るといいね。”

眩しいような悲しいようなサチコの表情に、

相川は何か全てのことを見透かされた気がして、もう、ダメだと思った。

しかし、何がダメになったのかは、相川にもよくわからなかった。













トイレでサチコの噂をバイト仲間がしていた。

サチコには男がいる。

サチコには全身にタトゥーが入った男がいる。


その夜、相川は、雨の中、傘をささずに帰るサチコを見た。










 





相川は皿洗いがひと段落すると必ずズボンのポケットから文庫本を取り出した。

その日、持っていたのは、夏目漱石”それから”

その様子をホールから見ていたサチコが休憩時に、

”それから”いいよね、相川君らしいと言う。

サチコの口から出た”それから”という言葉が意外であると同時に、

凄く美しいものに相川には感じられ、

その言葉が、

しばらく、耳から離れなかった。





 







帰宅途中、相川は深夜のファミレスでこんな光景を見た。

外から窓越しに見える、サチコと2、3人の男たち。
横柄な態度のタトゥー男と、その横に座るサチコ。
いつもとは違うサチコ。

ふざけあいながら、時に冗談なのかサチコは男に殴られている。

泣きそうな顔をするサチコ。

それでも、懸命に笑顔をつくり、サチコはその男の腰に手を絡ませ、

そばを離れようとはしなかった。

その光景に、相川は信じられないくらい嫌な気持ちになり、

逃げるようにその場を立ち去った。


 






夜、夢の中でもう一人の相川が言う。

決定だ。お前がサチコを好きなのはもう決定事項なのだ。

同時に、男の腰に手を回すサチコの映像が浮かぶ。

マスターベーションの数が増え、相川は深く眠れなくなっていった。






サチコは男に金を貢いでいる。

サチコは男に金を貢いでいる。

それは、バイト仲間、皆が知っていることらしかった。









 








いっそのこと。





 

 



しばらくして、サチコが居酒屋のバイトを辞めることになった。

なんでも、もっと、わりのいい水商売で働くそうだ。



サチコは人気があったので、ささやかながら店で送別会が開かれることになった。

珍しく店長も参加し、もちろん、相川も参加した。

しかし、相川は、これが最後だからと、勢いこんで、告白しようなどとは思わなかった。



 



ただ、それよりもうっすらと汗ばんだTシャツから透けて見える、サチコの下着と、

指に彫られた、彼氏とお揃いなんだろう小さな下手なタトゥーに、

自分とのどうしようもない距離と無力感を感じて、

目の前にあった、もずくかなんかに、無言で手をつけた。



 






それからのサチコのことを相川は、まったく知らないし、


サチコも当然、それからの相川のことは
知らない。













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TEXT PHOTO / MIZUHO

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MIZUHO (木藤瑞穂) 千葉市幕張在住

FSL編集長/フリーバードフォトレーベル代表

1971年生まれ。幼少の頃から挫折と現実逃避を繰り返し、全てを世界のせいにして生きてきたが、果てしない苦しみの果てに、息子が産まれ、ついに何かを理解する。現在はフリーの写真家。そして、1児の父親として、この世界を歩く。もちろん、負け犬。今夜も悲しい夜空を見上げ、どこかで吠えていることでしょう。今度、一緒に吠えますか(笑)

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