12月某日 　「 　名前　　」

子供が無事保育器を出て

僕はやっと何もはさまないで直に子供に

声をかけることが出来るようになった。

そして当然、僕は子供の名前を口にする。

子供の名前は生まれる前から決めていた。

名前は「和希」

平和の希望で和希

人々を和やかにしてもらいたいから和希

和という日本人の魂を国際化の世界で

忘れて欲しくないから和希

そしてわたしたちの希望であって欲しいから和希

名前は子供にとってとても大事だと思う。

名前一つで子供が間違った方向へ行く

ことを阻止できる可能性がある。

現にぼくはそうだった。

僕は思春期の頃、そうとう捻じ曲がった。

それは家庭環境のせいもあるだろうし

思春期という繊細な時期のせいもあったと思う。

とにかく相当ねじまがった。

殺し屋になれるんじゃないかと思ったことが

あるくらい、変質した冷たい思春期を過ごした。

周りには特に学校の人には徹底的に理解されなかった。

オキシドールで抜いた髪の色とは違い、

心の中では常にびくびくと怯えていた。

まわりの何もかもが自分の敵のように

思えてとにかく怖かった。

そして怖いから外面を武装する。

それの繰り返しだった。



そんな繰り返しの中で何度か死にたいと思ったことがある。

何度か自分を傷つけてみたい衝動に駆られたことがある。

そして他人をも傷つけてみたくなったことがある。

でも、そんな崖っぷちの僕を最終的に救ったのは

自分の名前だった。

自分の名前は自分の親が願いを込めてつけられた

という事実だった。

親が自分に名前をつけた意味。光景。

それを思うと自然と心の支えになった。

そしていくつかの思春期のクライシスを

通り抜け、僕は無事ここにいる。

自分の子供は自分の子供であるがゆえに

きっと思春期のクライシスを経験すると思う。

その何十年後かのために、

今、僕は願いを込めて名前をつける。

きっと効力があって欲しいと思う。

そんなことを思いながら「和希！」「和希！」

と何度も呼ぶ僕のことを、

彼女は苦笑いしながら見る。


そしてＴＶではアメリカの戦争が報道されていた。

…つづく

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