狂気の会社で働きはじめてからというもの、 毎朝、毎朝、背水の陣のような気分だった。 家を出るときに「ああ、今日はもう耐えられないかも・・・」 と思いながら足を進めていった。 前にも書いたが僕はWEBディレクターというスキルを持っていたので、わりと丁重に扱われていたが、それでも、決していい職場環境とは言えなかった。 そりゃそうだ、まわりで、死ねだの、カスだの、契約とれないなら、その辺の家にでも強盗に入れだと、自分の部下に対して暴虐のかぎりを尽くす上司どもと同じフロアでクリエイティブな仕事をどうすすめろってんだ。 しかも、うっかり油断でもしようものなら、すぐに無限労働地獄にひきずりこまれそうになる。 本当に困った会社だった。 そんな時、僕はよく嘘をついた。 「僕は、親戚の子供を預かっていて、7時までに保育園に迎えにいかなくてはならない。」 なので契約時間きっかりで帰る。 よくそう言って問答無用で”あばよー”という感じで退社した。 それで飲みにいったりしてた。 基本的にこの会社には営業であれば、応募すればどんな人間でも入れた。 本当にどんな人間でも。 おそらく犯罪暦があっても大丈夫なんじゃないだろうか。 逆にそのくらいのほうが出世できる。 そんな会社。 しかも一部上場。 社長、もと暴走族。 コンビニとか行って求人誌を開いて企画営業・ITみたいなカテゴリーを開けば今も募集している。 毎週募集している。 一年中募集している。 そりゃそうだ100人入社して90人やめるんだから。 ああ。 こんな話があった。 すごく人の良いA君というまだ23才くらいの大学出たての子が営業職で入社してきた。 何でも就職活動がうまくいかず、やっとこさ、この会社に来たとのこと。 仕事は大変そうだけど、でも、頑張るぞ!と意気込んでいた。 目が澄んだいい奴だった。 社会に対して、仕事に対して、会社というものに対して夢を持っていた。 僕は、彼のことを、うむむむ。。。といった感じで見ていた。 無事にすめばいいが。。。と思っていた。 あんのじょう、毎日、毎日、彼は磨り減っていった。 澄んでいた瞳は日ごとに荒んでいった。 どんどん殺気だっていった。 そして結果的に消えた。 夢を持っていた一人の若者がたった数ヶ月で、ボロボロにスポイルされ会社から姿を消した。 携帯電話も家の電話もずっと留守電で、どこに行ったのかもわからない。 死んだのかも知れない。 そんな彼のことを微塵も気にせず、彼の上司は彼のことをいなかった者として扱った。 そしてお気に入りの女子社員を前にして俺はミスチルが大好きでさーなどと言いながらくどいていた。 俺が彼の親ならこいつを殺すなと僕は思った。