調査業をやめた後、僕の中には何もなくなっていた。 これから、どうやって職業というものを得ればいいのか 完全にわからなくなっていた。 それが26才の夏。 いい年をした26才の夏。 仕事というのは、基本的に興味がなければできないと思う。 その最後の興味があった探偵という世界に否定された。 これは本当にショックな出来事だった。 他にもう興味のあることなんて何もなかった。 これはとても恐ろしいことだった。 やることがないから、毎日、安アパートの一室にいた。 ちなみその時の部屋の家賃は2万9千円。 異常に壁の薄いアパートだったのを覚えている。 そしてとても暑かったのを覚えている。 すごく汗くさかったのを覚えている。 隣から聞こえる夜の声。 家のまわりで響く人の喧騒。 その中で脂汗をかく日々。 友達が部屋に来ることもなかった。 ひとりでいた。 そして毎日、TVを見た。 あえてお笑いの番組だけを見つづけた。 まじめな番組は見なかった。 まじめな番組は見たら頭がおかしくなってしまうと思った。 薄っぺらい笑いを提供するTV番組ばかりを見た。 そして頭を薄っぺらにしていないと とても自分の置かれている状況に耐えることが出来なかった。 夜中、眠れずに頭がおかしくなりそうになると 駅前へサンダルばきで出た。 そしてラーメン屋とかに入りビールを飲んだ。 それが唯一の気の安らぐ行為だった。 本当は酒場へ行きたかったが その金は無かった。 仕事もなく、金も日々なくなってゆく。 そして、この状況は僕の心にしだいに凶気を生み始めていったようだった。