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「ー15年前、僕が会った時の田崎さんは20歳。ファーストフードで働くフリーターで、役者や格闘家も目指してた。『プロ格闘家になって、アルティメット大会の金網に入っちゃうのか、この人は!?』とか思ってました(笑)。」
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「正道会館で空手と柔術を習ってましたからね。試合向けの練習をして、空手の東日本大会で5位とか入賞したのかな? 今K−1で活躍してる安廣一哉選手と同期で、一緒に練習してました」
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「ーだから「アド街」でパン屋さんになってる田崎さんを見た時は、本当にビックリした。田崎さんて他にも芝居やったり、仕事もいろいろ経験してましたよね。この人何になるんだろう?って。」
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「そうですね。劇団で研究生やってた時期もあったし、仕事もいろいろやってましたからね。ミシン工場、解体屋、料理人修行、飲茶のお店…学校の勉強は好きじゃなかったから、中学出ると夜間の高校に通いながらすぐに働きはじめて」
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「一番最初の職場は?」
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「吉祥寺の花屋でした。2年働きました。今も店長とは面識があって、僕に仕事の基礎を叩き込んでくれたことに感謝してます。でも当時はブッ殺してやるとか思ってた(笑)。
仕事を教えてくれるわけではなく、目で盗まないといけない。自分の頭で考えて動いていかないと、すぐに手が飛んでくる。昔ながらの個人商店だったから、マニュアルで手取り足取り教えてくれるわけじゃないんですよね。時給は最初600円行かなかったし(笑)」
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「ー田崎さんと知り合ったファーストフード店。社員より誰より、田崎さんが唯一責任感があって頼りがいもあった。お客さんの目線で動いて、お店の利益を考えて働いてる気がした。」
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「だから15歳から花屋で働いてたことが大きかったんでしょうね。ファーストフードのお店は最初、“こんなラクしてお金もらっていいの?”って思いましたもの」
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「ー「パン屋になりたい」って夢が最初からあったんじゃなくて、身につけたモノがいっぱいくっついて『パン屋になる』って目標ができた。」
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「うん、だから今思えば空手の経験だって役に立ってると思うよ。パン作りっていうとオシャレなイメージを持つ人もいるだろうけど、最後は体力勝負だよ。
寝ないで、休まないで、働き続けて…でも空手でやった練習を思い出せば、これくらい乗り切れるって思える」
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「ーあの苦しい練習にくらべれば。」
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「苦しいって感覚は、僕、あまりないんだよね。思い出すとたしかに“苦しかった”のかもしれないけど、その時はそんなこと感じるヒマもなく、ただひたすらにやってるだけな気がする。
言葉にすると『3日完徹で働いて倒れた』ってなるけど、その時の感覚としては“時間なんて感じずに働き続けて、限界が来て、落ちた”って説明が近いと思う。倒れるって意識すらなかった(苦笑)。最初はお店だって、どうなっていくのか正直わからなかったし。
もしかしたら駄目になってたかもしれない。おかげ様で雑誌やTVで取り上げてもらえるようにはなったけど、この先だって気は抜けない」
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「ーその時その時でベストを尽くし続ける。厳しい!真似できない!」
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「だから僕の人生を希望って呼んでいいのかって(笑)。ただ、学歴がなくても、明確な目標がなかなか見つからなくても、“考えて、動き続けて、どうにかなった”って意味では、僕のケースは希望になるのかもしれませんね。
夜間の高校に通いながら花屋で働いた15歳。あれから20年。仕事も夢も、いろんなものを手にしては、あれも違う、これも違うって投げ捨てて行ったけど、その中で重たくってどうしても投げられないものが最後に残った。
僕の場合はそれがパン作りと接客だったんだと思います」
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「ー接客、好きですか?」
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「好きですね。ほめていただいたり、厳しいことを言われたり。いろんな考えのお客さんと話していくうちに、自分の考えもまとまっていく。今はベーグルやハード系のパンが人気だけど、オープン当時はそんなに売れなかったんですよ。
それをある時ブログで『ベーグルがおいしい』とほめていただいて、それを見たベーグル好きのお客さんが遠くからもどんどん来てくださって、主力商品となった。昔、別の所で雇われ店長をやってた頃は、売れ筋じゃない商品はすぐに引っ込めないといけなかったから、同じ感覚でやってたらベーグルは消えてたでしょうね。
でも僕にも『ベーグルやハード系のパンはイケる』という自負があったから、売れなくても作って売り続けた。数字やデータで売れ筋を調べるより、自分の感覚を信じた方が、長い目で見れば良い結果が出ると思ってます」
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「ーワニガメの形をした“ワニガメのパン”なんて、会社じゃまず却下ですよね(笑)。」
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「いや、アレが若い女性のお客さんに意外と人気あるんですよ!ただワニガメを扱った爬虫類のブログで取り上げられるところまでは、ちょっと予想してませんでしたね(笑)」
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