ありとあらゆる失敗を繰り返して僕は最終的に言い渡された。
クビを。
会社というものから。
20代中盤の頃である。
言われ方は柔らかかった。
「3ヶ月適当にやっていいから次の職場見つけておいてくれないかな。その間の給料は保証するよ。」
直属の上司にそういわれた。
しかし、その時の僕は
一瞬、おお、ラッキーと思った。
なぜなら僕自体もその会社に染まれずにいたから。
でも、それと同じエネルギーで、クビという冷たいフレーズにぞっとしたりもしていた。
今思うと、その会社にいた頃は、そもそも社長に嫌われていた。
その理由を間接的に聞いたことがある。
それは忘年会のカラオケで僕がCAROLのルイジアナを唄ったこと。
とても生意気に映ったらしい。
それが発端で嫌われたらしい。
今となっては、まあそういうこともあるよなと思う。
仕事というのは基本的に感性の会う人間とじゃないと出来ない。
僕のセンスを社長はきっと嫌いだったのでしょう。
うん、そういうことはある。
ちなみに、僕は今でも酒場へ行くとルイジアナを唄う。
やめる気はない。
クビ。
このクビって、由来はたぶん打ち首のクビでしょ?
現代では言葉はリストラに代わっているけど、僕の頃はそんな横文字ではなくて、まさに
クビ!
この言葉だった。
本当に死を意味する言葉だった。
この処遇に同僚や親しい先輩は同情してくれた。
でも、まあどうにもならなかった。
あたり前だ。
そんな思いは会社の経営者に届くはずもない。
逆に僕はてめえら何のんきなこと言ってやがんだとさえ思っていた。
お前らも気をつけないとやられるぞ。と思っていた。
そもそも、この会社自体もう長くはないぞとすら思っていた。
会社の上のほうが僕のことを良く思っていないだろうことは当然、察知していた。
とにかく個人行動がひどかったから、まあ予想は出来た。
何か企画が持ち上がったら、それのロケハン(※ロケーションハンティング。要は下見。)を勝手に行って帰ってこない。
そしてその企画が成功すれば誰も文句は言わないけれど、企画は失敗に終わる。
利益は出ない。
経費だけが無駄にかかる。
あげくにクライアントとも揉めたりもする。
こりゃダメだ。
そりゃクビにもなる。
だが、この時期の行動は僕にとってはラッキーだった。
今から思えば感謝さえしている。
だって、今、こんなことをしたら本当に死ぬ。
でも、この時はサラリーマンという立場で生活できる金銭だけは絶対にもらえていた。
生命だけは保証されていた。
こんなにラッキーなことはなかったのかも知れない。
そしてサラリーマンの良さはこの一点なのかも知れない。
とにかく僕は柔らかなクビを宣告されて、次のステージを探し始めた。
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