夏の狂気から目を覚まし、
僕はもう一度、人生をやり直したいと思った。
そして自分に何が出来るだろう
と改めて考えてみた。
しかし何も浮かびはしなかった。
しかし生きなければならない。
飯を食わなければならない。
暗中模索ながら、まずは飯を食うために
僕は日雇いの仕事を始めた。
明日の金に困るようなありさまだったので、
その日に金がもらえる日雇いの仕事しか出来なかった。
仕事は求人誌にいつも載っていた
人材派遣会社からもらった。
人材派遣というと、キレイに聞こえるが
要はピンはね屋だ。
労働者の賃金の何10%かを抜くことで、存在する
昔で言えばヤクザの領域の仕事。
それが現在の人材派遣という組織。
そんなやつらに頭を下げねばならない自分を悲しく思った。
そしてそうしなければ即時に飢え死にするであろう
自分の落ちぶれぶりにゾっとした。
そしてそんな思いをしながら、
僕はやつらの指示に従い毎日、違う現場へと行った。
日雇いの仕事の現場には
さまざまなものがある。
まあ、だいたい辛い。
基本的には人とは見られない。
金で買われた労働力。
金で買われた労働力に疲れることは許されない。
だからえんえんと働かされる。
倒れる寸前まで働かされる。
寸前ではなく、本当に倒れるものもいる。
しかし救急車は呼ばれない。
その辺にほうっておかれる。
見かねた僕はそういう倒れた人を
せめて日陰に運んであげたりしていた。
小説家 花村萬月の作品に「ブルース」という
ものがあるが、この作品は横浜の港湾の日雇い
労働がメインの現場としてかかれている。
この小説を読んで僕はなんとなく
日雇いの世界をわかった気になっていたが、
いざやってみると現場はもっと辛かった。
そして、そんなことを思いながら
これからが本当の僕の現実社会だな。。。
などと自嘲的に、つぶやいたりしていた。
朝から晩まで働かされ、
夜7時くらいに人材派遣会社の入り口に戻る。
そこには、同じような日雇いの人たちが集まっている。
皆、基本的には目をあわせない。
何か皆、一様なうしろ暗さを持っている。
そして、賃金を運んでくる社員を待つ。
大体、遅れてくる。
そして一言も侘びようとしない。
たまに酒臭い息をしている時もある。
その社員に皆、賃金を渡される。
そしてぞんざいな態度で
「明日は?」
と聞かれる。
ここで「はい、明日もよろしくお願いします。」
と言わないと嫌な顔をされる。
僕は「明日もよろしくお願いします。」
と言いながら何度も、この男の顔に
つばを吐きかけてやりたいと思っていた。
■明日のジョーの一場面より
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